放課後、緊張でうまく歩けないながらもなんとか約束の公園まで来ることができた。
マルコ先輩は前に話したところで待っていてくれた。わたしは慌ててマルコ先輩のもとへ向かった。


「こ、こんにちは…?」
「ぷっ、なんだよいそれ」


あ、いつも通りだ。
そんなことに驚きつつ、わたしも一緒になって笑うが、しばらくすると訪れたのは沈黙。

な、なんて言えばいいんだろう…。
マルコ先輩も下向いていて視線が合わない。
どうしようかとわたしがあたふたしていると、名前。と静かに名前を呼ばれた。


「わっ」


返事をする間もなく、わたしは腕を引かれ、気づいた頃にはマルコ先輩に抱きしめられていた。先輩がわたしの頭を胸にがっちりとくっつけるから、先輩の鼓動がよく聞こえた。
先輩も緊張してるんだ……。

わたしがそんな風に考えていると、マルコ先輩はわたしを抱きしめたまま話始めた。


「名前、悪かった」
「えっ…?」
「名前が今までおれのこと意識してなかったことくらいわかるよい」
「……はい」
「あの時、返事を止めなくてもフられることには変わりねェのに、名前のこと悩ませて悪かった……」


そして、最後だからこうさせてくれ。と先輩は呟いた。
抱きしめられたままだから、今、先輩がどんな顔をしているのか分からない
でも、きっといい顔はしていないんだと思う。


「マルコ先輩?」
「……ん?」


少し間が空いてからの返事だった。


「わたし、先輩のことフるつもりなんてありませんよ」
「……」


一瞬の沈黙の後、ガッと両肩を掴まれ身体を離された。明るくなった視界で見えたものは目を見開いて驚いているマルコ先輩の顔。


「ほっ、本当かよい?」
「ほんとです」


笑顔を向けても、未だポカンとわたしを見る先輩にわたしは苦笑を漏らした。


「先輩、もう一度言ってください」
「え…」


先輩は少し考えてから口を開いた。


「好きだよい…?」


それにわたしは笑顔で返す。


「わたしもです」








「わたしもです」


そう言って笑った名前をまた抱きしめる。

今名前の口から言われたことがすぐには信じられなかった。

おれ、夢でも見てんじゃねェのか…?


「せ、先輩ッ、苦しいです…」


腕の中で名前がもがくのを見て拘束を離した。


「っはぁ」


目の前で息を整える名前が本物だということが信じられなくて、静かに名前を呼べばすぐに顔が上がった。


「その…お、おれと、付き合ってくれるのかよい…?」


自分がこんな台詞を口にしているというのにも驚きだが、コクコクと恥ずかしそうに頷く名前にもかなり驚いた。
おれが何も言わないでいると、名前の顔が真っ赤に染まり、少し顔を伏せた。

かわいい……。

我慢できずにもう一度抱きしめる。


「なんだか、まだ信じられねェ…。今だけこうさせてくれよい」


名前はおれの胸の中で、はい…。と返事をした。嬉しくて抱きしめる力を強めれば、ゆっくりと、名前の手が背中にまわった。


あ…、やべぇな、それ……。



しばらくして体を離し、顔を覗くとゆでダコのように真っ赤になった名前と目が合った。


「ふっ…可愛いよい」
「なっ…!」


おれの言葉に一歩後ずさった名前は、両手を顔の前に出して交差させ、見ないでくださいっ!と大きな声をあげた。
すぐにその手を掴むと、え…?と名前は恐る恐るおれを見た。


「名前、……キス、してもいいかよい…?」


さっきまでとは比にならないほど真っ赤になる名前の頬。もう頭から湯気が出るのではと思うほど。


「ダメか…?」


おれがそう言うとフルフルと首を左右に振った。
よかった。とおれが呟くと名前はおれを見た。
その名前の手を引っ張って引き寄せ、頬に手を添える。

名前はおれを見て、おれも名前を見る。そのシチュエーションに、なんともいえない気持ちになった。

顔を寄せていくと、名前は目を閉じた。ギュッと眉間にしわが出来るほどで、おれは笑いそうになったが、彼女の唇に吸い寄せられるように唇を重ねた。

以前、勢いでしてしまった時は一瞬触れただけだった。
そう思うと、今はすぐに離れるのが惜しくて、名前の腰に手を回してさらに寄せた。


「んっ…」


さすがに名前が苦しそうな声を出したのでチュッと音を立てながら離してやると、彼女は息を整えようと首元に手をやった。


ちょっと待て、唇重ねただけだぞ、舌入れたりだとかしてねェ、本当にフレンチだ。


「息、止めてたのかよい…?」
「はぁっ…へ?」


マヌケな表情をした名前が可愛くてもう一度唇を重ねた。



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