「サッチー、腹減った」
「お!もう大丈夫なのかよ?」
「あぁ、完全復活だ」


食堂に入ってカウンターにやってきたエースの姿に驚き二度見した。意識が戻ってから医務室に飯を持ってたりもしてたから、こいつの回復具合も見てたが、やっと医務室卒業か。

カウンターに座って、肉食いてぇ。と呟く姿に、元気そうだと安心した。これまでは一応回復食だったからな。エースにすれば物足りなかったろう。久々に腕を振るってやろうと腕まくりをした。



「そういやオヤジのとこ行ったのか?」
「ん、んあぁ」


右手のスプーンでチャーハンをかき込み、左手に骨つき肉を持って、口を動物みたいに膨らませたエースに問いかける。うまそうに食べてくれるのは嬉しいが、病み上がりってことを忘れそうになる食いっぷりだ。いつもなら眠りに落ちそうなところだが、十分休んだ後だからなのか、今は食欲が勝ってるのか、寝落ちの気配はなかった。
ごくん!と大きく喉を鳴らして、口の中のものを飲み込むと、エースは口を開いた。


「行ったけど、全然怒られなかった」
「はは、そりゃそうだ」
「……?」


おれの言葉に不思議そうに首を傾げる。独断で飛び出して行くなんて普通ならオヤジの怒りを買ってたかもしれねぇ。けど、今回の件に関しては、エースが行かなかったら名前がどうなってたかわからねぇ。そのこともあって、マルコがエースを怒らないでほしいと頼んでいた。マルコがそんなことを言うのも意外だったけど、オヤジはハナから怒る気はないと笑ってたのはもっと驚いたな。


「オヤジは偉大ってことだな」
「ん、おぉ…?」


不思議そうにしながらも続きを噛み始めたエースの後ろに一人の人物が立つ。


「やっと復活かよい」


ポンとエースの肩に手を乗せて、口の端を上げたマルコはエースの隣に腰をおろした。マルコにコーヒーを出す準備を始めると、エースはスプーンと肉を置いて椅子から立った。
そんな様子をマルコも不思議そうに横目で見る。


「マルコ、あの時マルコが助けてくれたって聞いた、マルコがいなかったらおれ死んでたかもしれねぇ!ほんとにありがとう」


ぺこり。音が鳴りそうなほど綺麗なお辞儀におれもマルコも呆気にとられる。
お前、こんなことできたの…?たぶん、マルコも同じこと思ったんだろうな。でも、エースの気持ちは痛いほどに伝わった。マルコが笑ってエースの頭に手を乗せてくしゃくしゃと撫でる。


「よくやった。名前が無事なのはお前のおかげだよい」


そんなマルコの言葉にエースは顔を上げると、照れ臭そうに指で鼻をかいた。


「そんで、その名前はどうした?」
「傷の手当てでナースんとこ」


今日は朝飯以来見てないと思ってたが…、なるほど、頭にはあのナース集団が浮かんだ。マルコの能力でかなり良くなってきてるはずだったし、うちのナースたちはエキスパートだから、傷の処置しっかりやってくれるだろう。


「けど、さすがに遅ぇ…」


不貞腐れたようにエースがまた椅子に座った。きっとまた女子会なるものが開催されてるんだろうことは簡単に予想できて、それに苦笑いを返した。

マルコにコーヒーを出して、しばらくゆったりとした時間が流れる。エースに出した料理も綺麗に平らげられた。


「今日の夕飯も肉がいいな」
「お前、そんだけ食ってまだ飯のこと考えられるのかよ」
「おかわりねぇか?」


スプーンを置く気はないようで、空の皿をこちらに差し出してくる。残ってるチャーハンを入れてやるかと、その皿を受け取ったその時、向こうにある食堂の扉が開いた。

まるでスローモーション。

開いていく扉の向こうに立っていたのは、名前…なんだけど。白いレースと刺繍をあしらったワンピース姿で、髪はゆるく巻いていて、少し編み込みも混ぜ込んだハーフアップに、メイクもしてるのか、白い肌、長いまつげにくりっとした目が強調されて、頬と唇はほんのり淡いピンク色。

めちゃくちゃかわいい…!!

厨房に立つおれでも目を引く。当然、その扉近くにいる奴らは目を奪われていた。広い食堂、しかもちょうど昼時で騒がしい時間。その名前に気づいたのは一体何人だろう。しかし、確実にその姿に見惚れる人数は増えていってる。食堂内をきょろきょろ見回している姿もかわいい。そんな名前に、頬を染めたやつが何人か声をかけようとしている。


「サッチ?」


おれがぼーっと一点を見つめることに不思議に思ったのかエースが後ろを振り返る。次いでマルコも。そんで、二人とも動きが止まった。エースの手からスプーンが落ちてカランと音が鳴る。

その音に名前がこちらに気づいて、ふわりと笑った。

え、天使?…女神…?

名前がこちらに向かって歩いて来る。名前が通ったところはまるで時間が止まったように固まったまま。

ドタッ!!

正気を取り戻したらしいエースがすぐさま椅子から立って、名前のところへ、そして、その小さな体を担ぎ上げた。


「え?エースくん?」


そしてそのまま猛スピードで食堂を飛び出していく。えぇぇっ。と困惑した名前の声だけが、食堂には残った。


しかし、さっきの名前の破壊力は相当なもので、むさ苦しい男どもが完全に心を奪われていた。何人もの男が頬を染める様子はなんとも気持ち悪いが、気持ちは痛いほどにわかった。

だってめちゃくちゃかわいかった。あの子が島で歩いてたら確実に声をかける自信があるほどに。

自然とマルコと目が合い、お互いに苦笑いを溢す。

ありゃ、完全に敵増やしたな。

ナース達のしたり顔が浮かんだ。彼女たちはこれまで名前にエースがしていたことを知ってる。つまり、彼女達なりのエースへの仕置きだろうか。やはり、ナース達は敵に回すべきじゃないと改めて実感した。

やっぱ女って怖ぇ。

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