「あぁっ!くそ…!!」


戦闘の後の話し合いから時間が経って陽が落ちる時間になっても、出発の許可がでないことに焦りが募る。この間に名前に何かあったらと思うとどうしようもなくて、ただ何もできない自分に苛立った。


おれに覚悟がなかったばかりに、名前におれは必要ないって言われるのが怖くて、自分から離れた。この船の規模なら関わらずに過ごすことは可能だ。実際、一度も顔を合わせることなく1週間を過ごすことができていた。気付かれずともその姿を見ることはでき、おれがいなくてもこの船の一員となっていく名前。その姿を見ると、名前の世界におれの存在は必要なかったんだと、虚しさと、寂しさと、嫉妬心は増すばかりだったが、必死で目を逸らした。


だけど、こんなことになるなら、どんな手段を使っても名前のそばを離れなければよかった。手の届く距離に置いておけばよかった。今すぐにでも名前のもとに行きたい。そんな考えしかできないのはおれが子供だからなのか…。


甲板から、あの軍艦達が去った方を見る。もう陽も沈んで昼間とは全く違う景色が広がっているそこには、軍艦の影も形もない。


みんなの言うことはわかる。敵の目的がわからないままじゃ危ないって。でも、それは白ひげ海賊団としてだろう。今、名前はどれだけ不安な思いでいるだろう。いったいどんな目に遭わされているか、頭の中で傷付けられている名前が浮かび堪えるように拳を握りしめた。


「くっ…!!」


船縁に拳を振り下ろす。ドン!と音が鳴って、おれはその拳の横に額をつけた。



「くそ…!!」


「あー、おい、エース」


歯を食いしばり、なんとか苛立ちを抑えていると、後ろから声がかけられた。その声は戸惑っているようにも感じられて、おれの様子から声をかけるタイミングを図っていたんだろうと思った。顔に入った力を緩めることができないまま振り返ると、デュースは喉をひくつかせた。少し迷いながら、ちょっといいか。と言う。思わず眉が寄った。いったいなんだ。船縁から向き直ると、デュースは一歩近づいた。


「…悪い、あの場では言いにくくて」
「なんだ?」
「実は……」



「は?」


意味がわからなかったわけじゃない。それでもデュースの話を聞いて思わず固まる。

ユマが?あの場にいた?


「いや、まさかとは思ったんだが、ユマにそっくりな海兵があの場にいたのを見た。おれも戦闘中だったしずっと見てたわけじゃねぇけど」

名前が攫われたって聞いて、まさかと思って…。


デュースの話は確証はないとのことだったが、この状況から見て信憑性は高いと思った。


けど、だとしたら…。

「おれのせいじゃねぇか……」


視線が彷徨う。そんなおれに気づいているのかいないのか、デュースは言葉を続けた。


「ユマの両親は海軍の中将だって言ってたろ、マルコ隊長があの基地のトップは夫婦でやってるって。それに、ユマはあの時の件で、お前と名前のこと恨んでるだろ…」


最後は少し言いにくそうに口にした。

正直、あのまま飛び出して行ったユマの心境は正確にはわからない。ただ、ユマと名前の友達関係の崩壊の原因も、ユマが飛び出す原因を作ったのも、間違いなくおれで。名前も白ひげ海賊団の誰も悪くない。

居ても立っても居られなかった。名前が連れ去られた理由がわかった以上ここでじっとはしてられねぇ。


「っおい、どこ行く」


その場を去ろうとしたおれの前に立ち塞がって、デュースは止める。と言ってもデュースは、この話をおれだけにしている時点で、おれがどう行動するのかはわかっていただろう。


「これはおれの問題だ。白ひげのみんなに迷惑はかけらんねぇ」
「一人で乗り込む気か」
「……敵の目的はおれだろ。おれが行く。頼む。」

行かせてくれ。


デュースとしばらく見合った後、小さくはぁっ。と息を吐いた。


「このことはマルコ隊長に話すからな…」


黙って頷くと、デュースはやれやれと両手を上げて、道をあけた。

ポチャン。とストライカーを海に下ろし、そこに飛び乗る。
顔を上げると船縁からデュースが覗き込む。

「名前を頼むぞ」
「当然だ」

ニッと笑って強い視線を送るデュースに笑い返した。
帽子を目深にかぶって、月が照らす海の先を睨みつける。

絶対ェ、取り返してやる。

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