「ん?名前何か良いモノ食ったか?」
「え?」
「うまそうな匂いがするよい」
「あっ」



マルコさんとの訓練中、近づいた拍子にマルコさんからそんなことを言われて、思い当たる節があって曖昧に笑った。

昼下がり、操舵室での仕事がひと段落ついて、マルコさんとの訓練までの間、食堂で少し休憩していた。カウンター席から、ぼーっとしながら手際良く夕食の準備をするサッチさんを眺めていたら、突然声がかかった。



「名前もやるか?」
「え?」
「料理、名前もしてたんだよな?」



大きなボウルに様々な調味料を混ぜ合わせながらこちらを見てそんなことを言う。
わたしは、突然のことに驚いて目を見開いてしまった。
できないですよ!と慌てて顔の前で手を振れば、サッチさんはあれ?と首を傾げた。



「デュースが言ってたんだけどな、スペードの頃は名前が飯作ることもあったって」
「なっ!?ち、違いますよ!」



確かに、料理に挑戦したことはあったけれど…。あくまで練習であって、人に振る舞えるほどのものではなかったし、料理をしていたという類には入らない。
サッチさんはきっとわたしが料理ができる人だと認識しての誘いだろうから、慌てて首を振る。



「それに、わたし、味覚音痴ですし…」
「味覚音痴?」
「はい…、たぶん、人とは味覚がずれてるんです…」
「そうか?おれの飯うまいって食ってるじゃん」
「それは本当に美味しいですもん…」



おれの飯の美味しさがわかるなら味覚音痴じゃねぇな!なんてハツラツに笑ってくれるものだから、少しわたしも頬が緩んだ。サッチさんの料理はこんなに豪快なサッチさんが作ったのか疑わしい程に繊細な味付けで。一つ一つに気持ちが込められているのがわかって。とっても幸せな気分になるのだから不思議だ。



「じゃあさ、おれが教えるから一緒にやってみようぜ」
「え?」
「きっと上手くなるぜ、な?」



サッチさんって人をその気にさせるのがうまいなぁ。
それにきっと、サッチさんとなら楽しい気がするなんて考えに至っている時点でサッチさんに絆されてしまっているのだ。
そのまま厨房へと入れられて、今日の夕飯だというハンバーグの仕込みを少し手伝わせてもらった。
近くでサッチさんがソースを煮込んでいたから、きっとその匂いが体についてしまったんだ。



さっきあった経緯をマルコさんに説明すると、少し驚いた仕草で斜め上を見た。



「へぇ、サッチがそんなことを」
「はい、また教えてもらうことになりました」
「ま、あいつも何かしらお前の世話焼きたいんだろうよい」



付き合ってやれよい。
ポンと軽く頭に手を乗せられる。
付き合うだなんて、むしろわたしが付き合ってもらっている方なはずなのに。
わたしが気負わないような言葉選びをしてくれるのだから、本当にマルコさんは優しいと思う。



「そういや、この間の怪我は大丈夫だったかよい」
「はい、もうすっかり」



以前の訓練中に手首を捻ってしまったけれど、マルコさんの能力もあってすっかり良くなっていた。手首を振って大丈夫だとマルコさんに見せる。

「見せてみろ」と手を掴まれて、服を捲られ、じろじろと見られた時にはドキリとしたけれど、見られた範囲にはエースくんの痕はなくて内心ホッとした。



「大丈夫そうだねい」



少し安心したような表情を浮かべたマルコさんは、じゃ、まだまだいくよい。と訓練を再開し、わたしも気を引き締め直した。

[ 77/114 ]

[*prev] [next#]


もくじ




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -