昔の記憶 1/1

「っく…うぅっ…うぁぁんっ……おかぁっ…さぁん………」


名前の母が亡くなったのは、名前が5歳の頃だった。

母は昔から身体が弱く、名前を産む時も命がけだったそうだ。なんとか出産には耐えたが、その後からよく体調を崩すようになり、ついにその生涯を終えた。

その時名前の家族は、母の療養のため母の実家で暮らしていた。しかし、母が亡くなってすぐ、父は名前に引っ越しを告げた。

母を喪った悲しみを拭い切れない幼い名前を見かねたのか、父自身気持ちを切り替えなければと思ったのかはわからないが、その時やって来たのが現在も暮らしているこのマンション。

あの頃の名前は、あの土地から離れても母を忘れられず、いつもいつも涙を流して、もういない母親を求めていた。そんな時、名前たちよりも少し前に隣の部屋に越してきていた同い年の男の子が言った。


「ビービービービーうるせぇ!おれは泣き虫は嫌いなんだ!」


当時の名前にこんな言葉をかける人はいなかったから、さらに大泣きした。その数日後、この言葉を言ったエースが父親を亡くしていることを知った。







___名前。

____起きろ、名前。


どこからか、優しい声が名前を呼んだ。


「ん…」


目を開くと、呆れたように笑うエースの顔がすぐ近くにあった。


「もう駅着くぞ、いいかげん起きろ」
「あ…うん」


ガタンガタンと揺れる電車の中、エースの肩を枕に眠っていたことを思い出し、すぐに戻す。するとちょうど放送がなった。

まもなく、〇〇駅〜〇〇駅〜


名前とエースの通う高校の最寄駅だ。

あれから12年が経ち。小、中、高と同じ学校に進んだ名前とエースはいわゆる幼なじみという関係になっていた。


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