6.5 うそ

体育の授業終わり、中庭近くを通ると見慣れた幼なじみの姿が見えた。毎日顔を合わせちゃいるが、好きな奴を見かけて声をかけないなんてできるわけがなく、そのまま近付いた、その時だった。


「名前ちゃん!」


別の男の声が名前を呼び、おれはなぜか咄嗟に近くの柱に隠れてしまった。その男が名前に近付いたのが見える。角度的に相手の顔は見えないけど、体操服を着てるからおれのクラスの奴だろう。


「この間の約束覚えてる?」
「え?あぁ、うん、覚えてるよ」


は?約束?なんだそれ。
名前は一瞬悩んだようだけど、すぐに思い出したらしくそいつに笑いかけた。


「良かった。休みだし、明日はどうかな?何か用ある?」
「ううん、大丈夫だよ」
「そっか!じゃあ明日の10時に△△駅でいい?」
「うん、わかった」


名前が笑顔で頷くとそのまま男は去って行った。
…って……は?今のって…デートの約束じゃねぇか?

チラと名前を見ても、デートの約束をしたわりに浮かれた様な表情をしているわけでもない。特に何も考えてませんって感じだ。まだ決めつけるのは早いと、自分に言い聞かせた。

それに気になるような相手がいるならおれに話してくれたっていいはずだ。されたらそれはそれで邪魔するけど。

いろいろ考えたが、とりあえず今日1日様子を見ることにした。


学校が終わり家に帰ると、名前はまだ帰っていなかった。大方ノジコと寄り道でもしてるんだろう。

名前の部屋に漫画を持ち込んでその帰りを待つ、3巻目に突入した頃、やっと名前は帰ってきた。


「ただいま〜、ってあれ、エース来てたんだ」
「おう、遅かったな」
「ノジコとクレープ食べてきたの、話が弾んじゃって」


鞄を置き、ほうっと一息つくと、ブレザーを脱いだ。壁にブレザーを掛けた名前がこっちを見たので、自分でも分かるほど優しく微笑んでやった。


「あの、ここにいられると着替えられないんだけど…」


困ったように言う名前におれの笑顔が全く効いていないことがわかり少しムッとなる。


「いいじゃねぇか、一緒に風呂入った仲だろ」
「それは子供の頃の話ね!」
「今だって大人じゃねぇだろ」
「…そうだけど」


おれは動く気がない意思を表すようにベッドに寝転がると名前は、はーっ。と息を吐いた。


「もういいよ」


ブレザーは脱いだがそれ以外はそのままの格好で部屋から出て行った。その後を追いかけると、名前はエプロンをして冷蔵庫の中を覗き込んでいた。


「エースは夕飯食べてくの?」
「あー、うん、そうだな、食う」
「はいはい」


既に作る品は決まっていたのか、手際よく料理を始める名前に何かわかんないけどそそられた。

学校で名前のことを見てる奴らは大勢いる。でもこの姿はおれだけが見れる姿だ。そう思うと無性に気持ちが昂ぶってきて、その後ろ姿を包み込むように抱きしめた。


「きゃっ!何!?危ないよ!」
「なんかこうしたくなった」
「は、はい…!?」


耳まで赤くしている名前に口角が上がる。この間のキスは名前がおれを意識するきっかけには十分な効果を生んでくれたようだ。今まで通り振舞っていても、こういう体勢にもってくれば途端に狼狽えだす。


「エース…、も、もう離れてよ…」
「なぁ」
「…ん?」


名前の言葉は聞こえていなかったように話を切り出した。
やっぱ名前はおれの。あんな男よりおれを選んでくれると信じたかった。


「明日さ、久々に2人で出掛けようぜ」
「え、明日…?」
「うん」
「…ごめん、明日はちょっと」


名前の返答が自分の期待外れであったことに苛立った。一度離れ、名前の身体をこちらに向けさせてからその肩を掴んだ。見下ろす形で見つめると名前は少し怯えたように視線を外した。


「ちょっと、なんだよ」
「…約束があって」
「誰と」
「と、友達…」


グッと顔を近付ける。目線を合わせようとするおれとそれを避ける名前、ムカついて、名前の顎を掴んで無理やり唇を合わせた。


「んっ!…ちょっ!」
「だから、誰だよ」
「エッ、エースの知らない子!」


グイッと肩を力いっぱい押され上体が離れた。名前はおれをこれ以上近付けまいと、腕をのばし距離をとる。


「……そうかよ」
「…エース?」


おれの知らない奴なはずがねぇ、だってあの時見たのは制服じゃなくて体操服、おれのクラスしかありえねぇじゃねぇか。
名前がおれに嘘を吐いてまでそいつを優先させたのだとと思うと体から力が抜けた。


「…やっぱ飯いい、帰るな」
「えっ、ちょっと、エース…?」


名前が心配そうにおれを呼んだけど、決して引き止めるようなことはしてこず、おれはそのまま隣の部屋に戻った。


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