小説 | ナノ


  どんどん積み重なっていく間違い1


6巻のオマケペーパーネタで、龍アリ+モルアリ。アリババ君女体化+白龍君子供化+モルさん男体化で、とりあえず白龍君にアリババ君を母上とか姉上とか呼ばせたいとか、そんな感じで書き始めました。
ちなみに設定としては、山道の迷路のアンケネタ『アリババを人質にジュダ+モルを脅す白龍ェ』があった後をイメージしてて、色々と白龍君がやらかして一応事は収まったけれど、モルさんとしては複雑な気持ちで彼に接しないといけないとか、そんな薄暗い設定(笑) 暗いのばっか書いてた反動なのかやけに明るいです。話が進む度にモルさん(♂)が暴走している気がしないでもない話です……。


それでもよければどうぞ!












 前略。
 何がどうしてこうなったのか、私にはさっぱりわかりません。



 ベッドの上に座るアリババさんと子供を前に、私は心の中で一人頭を抱えていた。

 ぐずってとにかく周囲に怯えている子供が、唯一安心できるのがなぜかアリババさんの傍にいることらしい。服の裾をじっと掴んだまま離さずぴったりとアリババさんの腕にくっついている。アリババさんもそんな彼を安心させるように頭を撫でている。

「母上……?」
「大丈夫だぞ。怖くないからな〜。……なんかこうして小さくなると結構可愛いもんだな」

 その子供の黒髪を撫でながら、ふんわりと柔らかい表情で笑う彼女。髪の色も肌の色も違うしアリババさんが若すぎるから母子には見えないが、その子供がアリババさんを呼ぶ時は、どう間違えているのかわからないけど『母上』と呼んでいる。
 
――かわいいとかそうゆう問題じゃないです。アリババさん。

 思わずアリババさんから、その小さくなった白龍さんをひっぺがしたくなる衝動を辛うじて抑える。
 が、そんなことをすればこの子供は泣き叫ぶだろう。さっきまでそれはそれは大変だった。宿の隣室から叫び声のような泣き声に驚かされて、部屋に駆けつけた私達は小さくなった彼を見つけた。それから状況もよくわかっていなかったが私とアリババさんは泣いて怯える彼をなだめるのに必死だった。今は落ち着いて、ようやくその子供の名前を聞きだしたところだった。
 記憶もその当時に戻ったのか白龍さんは、アリババさんのことも、私のことも全く覚えていなかった。もちろん、白龍さんがアリババさんにした仕打ちも覚えていない。仮にも白龍さんがもろもろを覚えていてこんな風に彼女にくっついているのだとしたら、私は心底白龍さんを軽蔑するところだ。この前の謝罪はなんだったのかと。

「これからどうしましょうか……」

 努めて冷静に言葉を紡ぐ。白龍さんからはちょっと目を逸らして、なんとか視界にいれないようにして。
 自分の行動に醜い嫉妬も混じっているのを嫌でも自覚してしまう。勝手に漏れた嘆息はこの状況に対してではなく、子供相手に大人げない行動をとってしまう自分自身に対してだろう。

「白龍さんが小さくなったのもやはり魔法でしょうか? マグノシュタットで学んだアラジンがいれば、解けるかもしれないですけど」
「そうなんだけどなぁ〜。白龍がこんなんじゃここから移動できそうにもないしな」

 ちらりとアリババさんが白龍さんに視線を落とせば、潤んだ瞳で心配そうに白龍さんはアリババさんを見上げている。ちなみに白龍さんは今部屋にあったタオルを体に巻いている。体が小さくなった時に服まで一緒に小さくなってくれれば問題はなかったが、そんなに都合のいいことがあるはずがなかった。

「……母上、どこかいっちゃうんですか?」

 泣きそうな顔でアリババさんを見上げながら、白龍さんは服の裾を強く掴んでいる。

「大丈夫だよ。白龍を置いて行ったりしないから」
「ほんと、ですか?」
「ああ、本当だって。ずっと一緒にいるよ」

 と、腕を掴んでいる白龍に向き直って、アリババさんは白龍さんを持ちあげて、自分の膝の上に座らせた。後ろから包むように白龍さんを抱きしめてニコリと彼に笑顔を送る。

「ほら、な?」
「……はい」

 その温かさに安心したのかちょっと頬を赤くしながらはにかむ白龍さんに、ぴしりと私の額に青筋が立った。

――平常心、平常心……だ。

 相手は小さい子供だ。白龍さんである前に子供なんだ。そう必死に私は自分に言い聞かせた。

 ザガン攻略時に泣き虫だとは思ってましたが、なんでこんなに小さいあなたは軟弱なんですか。アリババさんに何したかわかっているんですか。甘えていいとでも思っているんですか。アリババさんもアリババさんです。『ずっと一緒』とか白龍さんに言わないでくださいよ。私にはまだその言葉言ってくれたことないのにっ!

「モルジアナー」
「はい!?」

 一瞬思考を嫉妬に支配されていて、かけられた声に思わず肩がはねた。アリババさんが首をかしげて私を見ている。

「俺が白龍の面倒を見ているからさ、その間にこいつの服だけでも買って来てくれないか? このまんまじゃ白龍が風邪ひいちゃいそうだ」
「ひ、一人で大丈夫ですか?」

 声が引きつっているのが自分でもよーくわかる。アリババさんの言っていることは間違いなく必要だと理解しているのに、小さいとはいえ白龍さんとアリババさんを二人きりにしたくない本音が勝手に口をついて出ていた。

「大丈夫に決まってんだろ。なー?」

 アリババさんが笑いかければ、顔を赤くして白龍さんが小さく頷く。自分のこめかみが引きつるのがよくわかる。

――私が聞きたいのは、そっちの大丈夫じゃないです。

 どんな罪でも許して、苦しんでいる人を助けようとするアリババさんの心の広さが私は好きです。が、かといって事が収まったのはほんの数日前でしょう? 小さいとはいってももう少し白龍さんに警戒心を持ってもいいんじゃないですか!?

「わ、たしが白龍さんの面倒を見て、アリババさんが服を買いに行くというのはどうでしょうか」

 本来なら私が留守番でその間にアリババさんに買い物を頼むとか、そんなことはしたくない。この礼儀のない提案をするのは、断腸の思いだ。それほどに、これ以上アリババさんにくっついている白龍さんを見たくないという気持ちは相当私の中で膨れ上がっていた。

「んー。なぁ、白龍? どっちと一緒にお留守番していたい?」
「……母上と一緒がいいです」
「だってさ」

 ほらなー。と言わんばかりのアリババさんの苦笑。心なしか小さい白龍さんが自分に懐いているのを嬉しく思っているのが滲みでているような笑顔でもあった。

――そんなの白龍さんに確認するまでもなくわかっていましたよ! でも、少しくらい私の気持ちや考えていることを察してくれてもいいんじゃないですか!?

「……っ! ……それではすぐに行ってきます。そして、すぐに戻ってきますから!!」

 これ以上は議論の無駄だった。
 一番の方法はさっさと服を買ってきて、せめて白龍さんがアリババさんに抱きかかえられているこの状況を打破することだ。

 財布を握り締めて、部屋を走って出ていく私の後ろから声がする。

「よろしく頼むよ、モルジアナ―」

 人の気も知らない、のんきで明るい声が。







 モルジアナが出ていって、部屋には俺とちびっこい白龍が残された。

「……さて、と」

――どうしようかな?

 モルジアナは自分で気付いているのかどうかわからないけれど、感情を押し殺しながらも白龍をしっかりと睨んでいる。最初、白龍をあやしている時はそんなことなかったってのに、全くどうしたんだよ。おかげで、白龍は完全にモルジアナのことを怖がっているぞ。
 今はここにいない相手に、思わず胸中でぼやく。

「……母上?」

 白龍に回している俺の手を、白龍の小さな手が心細そうにぎゅっと握ってくる。

――うっわ。やっばい。まじ、可愛い……。

 あんなことがあった後の俺が思うのもどーかと思うけど、この小っさい白龍はけっこう可愛い。年は別れた時のマリアムくらいの年に見えるんだけれど、心なしか舌足らずな言葉遣いだ。その上、黒髪の隙間からくりんくりんの丸っこくて黒い瞳が、ちょっと潤みながら俺を見上げている。
 いつものしかめっ面や真面目な顔をしていたり、眉間にしわを寄せている白龍からは想像もできないほど、この小さい白龍は可愛くてしょうがない。思わず頬が緩んでしまう。
 不意に、その手が僅かに震えているのが伝わってきた。

「どうした? ……寒いのか?」
「……はい。寒いです」

 そういえば朝ということもあってわざわざ暖炉をつけちゃいなかった。今俺達がいる街は、山間にある標高の高い場所にある街なもんだから朝は結構冷えてくる。俺やモルジアナはちゃんと服をきているから問題なかったけれど、タオル一枚じゃそうはいかないだろう。

「悪かったな。気付いてやれなくて。もうすぐモルジアナが戻ってくるから、もうちょっとの辛抱な?」

 ベッドのふとんを手にとって、腕の中の白龍ごと俺は一緒にくるまった。そのままベッドの上をいそいそと場所をちょっと移動して、壁に背もたれができる楽な姿勢をとる。

「ほら。これならあったかいだろ」
「はい! 母上!」

 暖かくなって嬉しいのか、覗きこんだ白龍の顔は笑顔で輝いていた。腕の中で身じろぐ白龍がくすぐったくって、俺もつられて笑った。幼くなったとはいえ自分が寒くても弱音を口にしようとしない所を見ると、やっぱりこの子供は白龍なんだなーと思ってしまう。

「なぁ、白龍。俺はお前の母親じゃないんだぞ。だから、俺は『母上』じゃない。わかるか?」
「……母上ではないのですか?」
「そーだ」
「……姉上、ですか?」
「あ、姉!? う、うーん。そっちの方が今は近いかもしんねーけど……。い、いやダメだ! 俺はアリババだ。ア・リ・バ・バ」

――こいつの頭ん中どーなってんだよ!?

 いきなり母上って呼ばれた時はマジでビビった。よく考えたら、モルジアナの機嫌が悪くなり始めたのもそれくらいのような気がする。なんとかここは呼び方を改めさせたい。ちゃんといつも通りに白龍に俺を呼ばせれば、モルジアナの機嫌も多少はマシになる気がする。

「……アリババ?」
「そうだ。アリババだ。俺のことはアリババって呼ぶんだぞ」
「わかりました。……アリババ」
「……おう」

 言われてから、いつもの白龍の呼び方でないことに、よくわからない照れ臭さを感じてしまう。かといって、こんな年端もいかない子供にいつもの呼び方にしろだの、今更言えることじゃない。

――まぁ、いっか。

 体が温かくなってくると、意識が少しずつまどろんでくる。最近ろくに眠れなかった疲労もあって、せまりくる睡魔には抗いがたかった。視線を落とせば、白龍も眠いのかうとうとと頭が船をこぎ始めている。そのままだと頭を勢いよくどこかにぶつけそうだったもんだから、白龍をゆっくりと俺は抱え直した。すると、白龍はその頭を俺の胸に預けてきた。じっとしていると静かな寝息が聞こえてくる。

――俺も、ちょっとだけ……。

 腕の中の白龍が湯たんぽみたいにとても温かくて、まぶたが自然と降りてくる。子供を抱えて眠るって、こんな感じだったのかな。母さん……。

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