- ナノ -

目覚め


湿ったものが頬を撫でる感覚で、意識が浮上する。
目を開けると、赤い瞳と目が合った。
『くぅ?』
高い声でなくその生き物は、赤い瞳と黒い肌、そして真っ白な体毛を持っていた。その生き物は私が好きだったポケモンの一匹。
「アブソル……」
わざわいポケモン、アブソルが、私の顔を覗き込んでいた。
『おう、気がついた!良かった!』
アブソルが明るい声を出す。にこにこ笑う顔が可愛い。
「アブソル、ちょっと顔どけて。起き上がれない」
『あっ、そうだよな!』
アブソルは素直にどいてくれた。私は体を起こし、周りを見回す。木。木。木。どうやらここは森のようだ。
足元には、私好みのシンプルなバッグが落ちていた。これがディアルガとパルキアが言っていた荷物かな?マジで、ポケモンの世界にトリップしてしまったらしい。
「はあああああああ〜……」
思い溜め息が漏れる。こんなこと望んでなかった。夢小説で読むだけで十分だった。なのに、あいつらは、自分らのミスで私を連れて来といて、謝りもせずにポイだ。私は向こうに家族も友達もいた。幸せだったのに。ふざけんな。ふざけんな!
『お、おい、大丈夫か?どっか痛いのか?腹減ってるのか?木の実なら、たくさん採ってきてやるぜ?』
アブソルが、おろおろと私の周りを回る。こいつ優しいな。アブソルは、困った顔で私を見つめている。なんでこいつ、こんなに優しいんだろう。
まあいいや、アブソルの顔見てたら、少し元気が出た。
そうだ、こうなったら、私なりに頑張ってみよう。幸せになって、あいつらを見返してやろう。
「とりあえず、生きる!」
勢いをつけて立ち上がり、宣言する。
『おお、元気になった!そうだよな、生きてればいいことあるよな!』
アブソルが安心したように言う。そこで私は、あることに気づいた。
「ねえ、ところでアブソル」
『ん?』
「あんたなんで人語喋ってるの?」



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