17
手に取った書物には
複数の人が綴ったと思うほど、乱雑に書き殴られたページや丁寧に書き綴られたページが混在し読めない部分もあった。
びっしりと敷き詰められた情報からわかった情報は。
巨人研究をしていたということだ。
立体機動装置の開発にも携わった
王への忠誠の為、耳の後ろに刻印を刻むという行為が行われていた。
憲兵団、駐屯兵団、調査兵団の前身となる組織の立案
一族は記憶で引き継がれているということのみだった。
全てのページを読み終え、ベッドに倒れこむエミリー
「(記憶かぁ…。)誰のですかー…。」
その人が死んでたら意味がないんじゃ。自分の存在について試されてるような…。でも、どうして私はこんなにも先祖の事を気にかけ続けるのだろう…。
「何かわかりました?」
私の隣に同じように寝転がり、同じように深く息を吐いて深く吸うヒストリア。
「私は私なんだなーって。それじゃ片付けられない程触れてはいけない場所に触れた気分」
あのリリアと話した場所で会えれば、知れるのかもしれないけど。意図的に行ける場所でもないし。夢の中かもしれないし。
「ヒストリア、私やっぱり調査兵団を続けたいんだよね。」
「?私何かエミリーさんに…………ぁ…。すっすいませんっ!」
勢いよく飛び起き青ざめた様子で私に頭を下げるヒストリア。
「エミリーさんを呼ぶ方法が思いつかなくて、怪しまれずここに連れてきてくれるにはどうすればいいかと思って…。女王になる前夜に、私一人では不安で護衛という形でエミリーさんを側近として…っていってしまいまいた…。お話をしたかったんです、エミリーさんと2人だけで
私あの日、見たんです。エレンに触れて…」
エミリーは勢いよく飛び起きヒストリアの両肩を掴む
「な、なにを見たの!?」
「ぁ…私が見たのは…私の記憶で、自分自身の生い立ちでした。私に読み書きを教えてくれた姉が居たんです、父だけでなく姉も…そんなことも忘れてしまってお礼も言えないまま…。」
哀しそうに目を伏せ礼拝堂でロッドから告げられたのか、自身の生い立ちの話始め段々と弱弱しくなって頭を押さえ絞り出していた。
「父を斬ったときに見えた断片的な記憶では…その中で出てきた人が…エミリーさんにとても似ていて…。」
病院の一室にロッドと複数の憲兵がベッドに横たわるシアンを見下ろす。
「シアン、どうして我々の元に戻ってこなかった。それがこの世界の平和だというのに。」
「それはあなた達が描いた夢物語の1ページに過ぎないじゃない。」
「ウーリは君たちの解放を願っていたが、私はそう思わない。私は、君たちを在るべき場所に居るべきだと考える。」
「私達がいなくても、あなた達は勝手に作り上げて平和という虚構に浸るじゃない」
「…それが答えか?」
「問えば、回答が返ってくると思ってるの?」
「その減らず口は先祖譲りか。」
「あら、私たちのことが知りたければそれなりの行動をすればよかったじゃない。」
憲兵によって取り押さえられ、腕に注射針を刺し流し込まれる。
「病院に居たことに感謝する。ここだと死体処理に困らない。病院で死ねば死因を知りたがる者が居ない限りここで終わりを遂げる。母子ともどもこの場に朽ち果てるだろう。」
呼吸が荒くなり、虚ろになっていく妊婦。
「父親ももうこの世には居ない。安心しろ。」
途中から頭を押さえ絶望するヒストリア。
「シアン…それが私のお母さんの名前なのかな…。」
ぽろぽろと涙をこぼし始めごめんなさい。ごめんなさい。とずっと謝り続けるヒストリアを抱きしめ頭を撫で落ち着かせる。
「あなたのせいじゃない。巻き込まれちゃったね私達ー…ほんと…ついてない。」
「…エミリーさん…どうすれば…あなたの様に…強くいれますか。私には…」
エミリーの腕の中でカタカタと肩を揺らし、泣き続けるヒストリア。
「ヒストリア・レイス。」
ゆっくり顔を上げ大きな瞳からぽろぽろと涙を流し続ける彼女の頬に両手をあて
「あなたのような子を同じ想いをしてる人たちを減らしてあげて?強さなんていらない、慈悲深く痛みのわかる女王になって、あなたは誰よりもそれが出来ると思うから。」
「エミリーさん…。」
「私は兵士として戦うから、あなたも自分自身と戦って。…私はまだユミルのこと諦めてないから。」
「…っ…。」
少し落ち着いたヒストリアをベッドの端に座らせ、瞼を撫でる
「明日そんな顔で民衆の前に出るの?」
「…。」
辺りを見渡し目元を冷やせる布を探そうと思い室内に何かあるのではと思い歩こうとしたらマントを捕まれる。
「もう戻られるんですか。」
あまりにもかわいく寂しそうに言うもんだから…。戸惑いながら隣に座り頭を撫でる。
「あなたが眠りにつくまで側に居るわよ。」
「そっ、そんなこと言ってません。エミリーさんだって寝ずに…今まで」
「その前に目元を冷やさなきゃ、私が何かしたと勘違いされるじゃない」
と意地悪なこと言うエミリーに、慌てて立ち上がり洗面台の方へ行き顔をバシャバシャと自身の顔を洗うヒストリアがおかしくて笑みが零れる。
これでいいでしょと言わんばかりの顔で私の方をみるもんだから、こんな純粋な子が女王になるのかと思うとすこしばかり心が痛んだ。
「擦らないで。」
顔を拭いても、やはり気疲れがあるのか涙が溢れてくるのだろう。なかなか顔から布を離さない。
「エミリーさんが私の近くに居てくれると勇気が出るんです。本当は近くに居てほしいです。私の弱い部分もダメな部分もわかってくれて、スッと心を溶かしてくれるんです。」
布で顔をおさえながらこもった声で話す。
「ありがとう。 でも私には帰りたい場所あるんだー」
「……リヴァイ兵長ですか。」
まさか人の名前が出てくると思ってなくて固まった。
「兵長を見てれば誰だって気づかされますよ。エミリーさんの見るときだけすごく優しい目になることが多いので。」
気にした事なかった。表情に出にくい性格なのに部下に気づかれるだなんて、困るんですけどー。
「恋人なんですか。」
顔から布が離れ私の方を見るヒストリア。
「そう見える?」
「少なからず104期のみんなはそう思ってます。エミリーさんって人誑しですよね。」
ひ、ひとたらし?!
「リアムさんもエミリーさんの事好きですよね。104期もエミリーさんのこと悪く言う人いないですし、それ以上に尊敬していますよ皆。」
「あ…ありがとう…。」
なんだろ、すごく責め立てられてる気分…。
「エレンだって、あなたが居るから頑張れてるんだと思います。」
「買い被りすぎじゃないかな?」
「リアムさん言ってましたよ、敵が多くて困るって。」
…私が来るまでに何を話してたのよ、あなた達。
「エミリーさんの話聞きたいです。聞かせてください、兵長の馴れ初めとか」
そう言って私の手を引きベッドに座らせようとした時、コンコンとなりエミリーは急いでベッドにあった書物をマントの下に隠す。
「はい。」とヒストリアが返事すると扉が開き総統と憲兵の姿が見え頭を下げる。
「明日に備えお休みください。」
ヒストリアの顔が強張るのが見え、隠すように彼女の前に立ち
「ご苦労様です総統。ですがこんな時間に、複数の成人男性が高貴な女性の部屋に訪れるなんてあまりにも不敬ではありませんか?体制が整っていないのは理解してるつもりですが」
ヒストリアの頬を撫でベッドに方に座らせ跪いて履物を脱がせ掛ふとんをめくり入るように視線を向け頭をぽんと撫で「ゆっくり休んで、明日は私がお迎えに上がります。」と静かに声をかけ扉の前に立つ総統の前へ足を進める。
跪いた時に書物を取り出し布団を上げ死角をつくり、その際にヒストリアに書物を渡しここで何をしていたのか探られない様にした。
「彼女の身の回りの事や報告などを行う際、彼女の不安を煽らない方を就けてください。今なら私がお伺いいたします。どうぞ、あちらに。」
総統を見上げ扉の方に手のひらを向け外に出るように目で訴える。総統はヒストリアの方を向き頭を下げ非礼を詫びエミリーを見下ろし外へ出る。
コツコツと総統の横を歩き、私の後ろにリアム含む憲兵が歩く。
「彼女の側近になるのだろう。」
「場所を変えて話をしましょう、彼女の気が休まりません。」
総統に連れられた部屋には各兵団長及び幹部が集結されていた。その中にエルヴィンもリヴァイも含まれていた。
「待たせたな。女王と話されたことを聞こうか。」
総統は席に着き扉の前に立ち尽く私に一斉に視線が集まる。
「そうやって…」
ヒストリアを家畜の様に自分たちの手の平で転がすつもりですか。彼女を己の都合でいいように利用していくんですか。これからは彼女がこの壁の中の王です、あなた達のご都合で彼女のこれ以上の自由を奪うのならば、私が彼女の盾になったほうがいいんじゃ…
「君は、彼女の側に就くのか。」
私は、戦い続けたい。兵士として、自分の信念を最優先に折れる事のない刃を心臓に刺し。
「いいえ、私は調査兵団兵士です。それは今もこれからも変わりません。」
「女王の意思は。「失礼ですが総統。あなた方は、彼女と話しましたか。彼女自身を見ようとしましたか。確かにあなた方が思ってる通り彼女は強くもないですが、弱くもありません。
彼女があなた方の命で女王に就いたとお考えですか、あまり彼女を見誤らないでいただけますか。彼女の覚悟を軽く見積もらないでいただきたいです。」
ッフ…やはり、君の様な者が王の側に居るべきだと考えるのは私のエゴか?…さあ、どうしたものか…」
机に肘をつき頭を押さえる総統。
「まずは、明日の戴冠式です。今後の事はしっかり当人同士で話してください。」
「まるで、自分は無関係のような言いかただな」
「私は調査兵団兵士ですよ。」
「聞き方を変えよう、私の元で働かないか。」
各兵団がざわめく。
「おい「総統…。」」
寝不足なうえ、ケニーも居なくなって母がレイス家に殺された事実も知って。もうこれ以上感情を殺すのにも疲れた。自分たちのエゴで振り回して…。操り人形なんて御免よ。
ダンッ。
机を勢いよく叩き
「くどいですよ。私は現調査兵団兵士エミリー・アメリアです、何が不満ですか?
私は心の底から人類の解放と人類の自由を願っています。
見守るのではなく自らの手で戦いたいんです。
これは私の身勝手です、命令したければすればいい。
ヒストリアがそれを願うなら跪いて答えます。
その代わり私が王の側に就いたら、私はその立場を利用し彼女との信頼関係を築き上げまず手始めに
貴方が悠々と座ってるその場から引きずり降ろしてやる。」
「き、貴様!総統に無礼だぞ!」
憲兵幹部が私に銃を向ける
「何も考えず銃口を向ける事があなたの仕事?憲兵。」
コツコツと銃を向ける憲兵の前に立ち、銃口を自分の心臓にあてがい。
「さあ、どうぞ?」
「エミリー。」エルヴィンが静かに彼女を呼ぶが、彼の声は届くことなくエミリーは冷たく醒めた笑みを浮かべ「ほら、なんの為に銃口を向けたの。」と続けカタカタと震える憲兵。
リアムが銃を掴み、奪いとる。
自身の胸元から銃口から離れてぼーっと見つめリアムを見上げる。リアムの表情はいつもと変わらない表情で、銃口を構えた憲兵は平然と撃てという彼女の姿を見て怯え「狂ってる。」とつぶやく。
「貴方から見た私は、狂ってるかもしれない。でもそれくらいが丁度いいときもあるのよ」
「エミリー。」
エルヴィンが呼びかけにやっと反応を示すエミリー。
「はい。」
「彼女の様子は。」
「不安定ではありますが、それは時間がなんとかしてくれると思います。」
「そうか。」
「あ、一つ約束してきました。」
両手を机について総統に笑顔を向ける。
「戴冠式の迎えは私がする。」
「よかろう。」
「じゃ、私もう休んでいいですか。あとはお偉い方々でやってください。」
「そうだな、今日はここまでにする。悪いな、君を酷使してしまって。」
「小娘ごときに思ってないこと言わないでくださいよー総統。そんなこと仰るなんて、よほど楽しいことがあったんでしょうね。」
フッとは鼻で笑い、後ろを向いて扉に手をかけ
「では、失礼します。」
と言い出て行った。その後は兵団長と総統のみが残り雑談のようなものが行われた。
「エルヴィン、あれはいつもあんな感じなのか。」
「いえ。」
「はっはっは。あの小娘…肝が据わってるどころではない。よく飼いならしたな、調査兵団には惜しい人材だ。交流派遣は彼女にして正解だったな。今再開してもいいが、彼女は私を引きずり降ろしてくるだろうな、ッハ。ほんとうにくそ生意気な小娘だ。」
よっぽど機嫌がいいのか、総統は彼女を想浮かべるように言葉を弾ませる。
「よさぬか、彼女が優秀なのは前からじゃ。彼女が望むのならば調査兵として人類に仕えてもらえばよかろう、お前の趣味に彼女を巻き込むでない。」
「ピクシス、貴様も小娘に現を抜かすか。」
「総統、彼女をどうするおつもりですか。」
ナイルが彼女の処遇を聞く。
「どうとは?」
「その…」
エルヴィンの方をチラッと見た後言いづらそうに総統の方を見つめる。
「私は調査兵団に期待してる。リヴァイといいエミリーといい…」
昔どこかで出会った女に似てるあの容姿。
いつだったか忘れたがかつて地下の酒場で汚職を握ったときだったか、あまりにもその場に不釣り合いだった。名前は忘れてしまったがどこか面影が酒場で働く女に似てたな。
小娘も地下出身だったか
「エルヴィン。彼女の親族の名はなんだ」
「リリアです。」
「姓は」
「不明の様です。」
「そうか。」
エミリー・アメリア。貴様の働きを楽しみにしてるぞ。
「エミリーちゃん」
出て行った彼女の後を急いで追いかけるリアム。
「なーーにーー。もう寝かせて?」
立ち止まって振り返る。
「ごめんね、あんな形になって。」
困ったような笑みを浮かべ見下ろし頭をかく、その顔をみてエミリーは「はあ」とため息をついて歩きはじめる、歩幅を合わせリアムも歩く。
「別にー?怒ってないわよ。ただあーやって何も考えず、銃を向ける癖をやめなさいよ。人を犯罪者の様に魅せるのが上手なんだから。」
「耳が痛いね。彼らは臆病だからね。」
「あなたは違うの?」
「俺は君の幸せを願ってるよ?」
眉を顰めリアムをみあげる。
「あーそういえば、ヒストリアになに言ったの。誤解を招くような事やめてよね」
「彼女に君との関係を聞かれただけだよ」
「なんて言ったのよ…。」
「俺の大事な人」
「誤解を招いてるじゃない。」
額を押さえながら大きなため息をつく。その腕を引っ張り自身に引き寄せ抱きしめ耳元で囁かれる
「疲れてるだろ、ここから俺の家近いよ。君の忘れ物もある、どうかな?」
あーー、頭がクラクラする。足の感覚が鈍いちゃんと立ててる?
寝不足だから?緊張から解放されたから?疲れ?それともまだ薬のこってる?たぶん全部。あー…早く寝たい…。頭が痛い…。
「てめえ、何してやがる。」
「…エミリーちゃん…?」
エミリーは限界を迎えリアムに抱きしめられたままその場で意識を手放した。
自分の腕の中で、眠る彼女は美しく儚くみえたけど。温もりと重みで現実味を帯びて自分の胸に熱がこもる。
「エミリーちゃん。」
優しく呼びかけるが返答は帰ってこない。かがみ彼女を抱きかかえようとした時。パシンと手を払われ黒い影と共に彼女の香りが揺らぐ
「触るな。」
そう言って抱え彼女の耳元で「エミリー、帰るぞ。」と優しい眼差しで呼ぶリヴァイを見下ろす。
「…んー…っ…」と少しだけ眉間にしわを寄せ、彼の首に腕を回してまた安心したようにスースーと寝息たて眠る。そのまま俺に背中を向け大事そうに抱えながら立ち去ろうとする。
「リヴァイ」
「なんだ。」
「突き当り右奥の客間を使え、俺から報告しといてやる。これは貸しだ、必ず返せ。」
「…助かる。」
2人を眺め、嫉妬すらわかなかった。彼女は深く眠っていても、呼ばれると引き上げられる意識。目覚めはしなかったが無意識の中でもリヴァイを信用してるのはさっきの行動で自分との差を見せつけられた。
俺が何度呼んでも、彼女を引き上げることはできずリヴァイの優しい呼びかけにはあんなにもかわいい顔で擦り寄る彼女にため息が出るほど甘く愛おしく感じた。
リヴァイから引きはがして自分が連れて行ってもよかったが、彼女も休息が必要だ。その隣は俺ではなく、今はあいつが適役なんだろうな。
まあ、今回は譲るよリヴァイ。でも、諦めたわけじゃない。俺はいつでも君の穴を埋めれるように準備をしておくことにするよ。