15
自身の手でエルヴィンの腕を奪った精神的なショックと戦いながら馬を走らせる。
泣くこともやめた、何のための涙なのか誰のための涙なのか自分自身に向けての涙などなんの意味もない、命があっただけいいとみな口を揃えて言う。
そうかもしれない、けどエルヴィンの存在が大きすぎて自分の行いが正解だったのかわからない。きっとずっと消えることなくエルヴィンと会うたびに心臓を握り潰されるような息苦しさを感じるんだろうなぁ。
ウォール・ローゼが突破された可能性があるとの一報で、ローゼ内の住民はウォール・シーナ内の旧地下都市への非難を余儀なくされた。
だが、残された人類の半数以上を食わせることのできる食料の備蓄は一週間が限界だった。
それを越えれば人間同士の奪い合い殺し合いになるのは必至である、そのため問題発生の1週間後にウォール・ローゼ安全宣言をするよりなかった
調査兵団兵舎に到着後、馬を繋ぎ場へ向かうエミリー。
瞬く間に兵舎内は慌ただしくなり治療が必要な兵士たちが続々と医療班達が運んでいき先ほどまで静かだったのが嘘のように叫び声や足音が響き渡る。
あぁ、身体が鉛のように重い。一番最悪なのが頭がすっきりせず思考を鈍らせて頭を少し振ると脳がグワンとなり気分が悪くなって吐き気に襲われる。
足が地について歩けてるのかもわからない。
「エミリー!」
身体を少し引きずるように歩くエミリーをアルミンが見つけ走って彼女の側へ行き声をかける。
エミリーは誰かが自分の事を呼んだ気がしたが振り向くことなく手綱を握ったまま自身の馬の背中を撫でながら足を進める。
「…エミリー…馬は僕が連れて行くよ。少し医療班に見てもらおう。」
「…大丈夫よ。」
彼女の弱弱しい声と姿に動揺しながらもアルミンは彼女の背中に手をやり撫でる。
「エミリー…これは僕のわがままかもしれない、迷惑に思うかもしれない。けど今はちゃんと診てもらってくれないか、次に備えて準備を整えるのも兵士の役割だ。」
「…そうね、ごめんなさい。そうするわね…。」
「僕が馬を預かるよ。」
「ありがとう。…ねぇ、ハンネスさんって…」
アルミンに聞こう顔を上げ彼の顔を見て察した。
「そ、っか…。馬ありがとね、アルミンもちゃんと休むんだよ。」
医療班に診てもらうと約束したのにも関わらずエミリーは自室に戻りシャワー室へ向かう。
密室で一人になれるとことならどこでもよかった。誰かと話したくなかった、それほど余裕がなかった。みんなだってつらいししんどいのは頭でわかってる。
エレンを優先しろとエルヴィンも言っていた。間違ってなかったかもしれない。それでも…
「きっついなぁ…。」
ハンネスさんとの約束も、エルヴィンの優しい言葉も、こんな私を気遣うよな兵士達も。
全てが今しんどかった、誰かに責めてほしかった。お前のせいで団長とエレンが危険な目に合い腕を失うことになったと。
そんなこと誰も言わないし、エルヴィン自身もそんなこと微塵も思ってない様子で自分の行いを責めれるのは自分しかいなかった。そして許せそうにない。
コンコンと自室の扉が叩かれたのが分かり息を少し、存在してることを消すかのように姿をひそめる。
今は誰にも会いたくない。話したくない。このままここで朝を迎えてまた…
キィと扉が開く音が聞こえて緊張が体に走り、体を縮め膝を抱きかかえてた腕の力が一層つよくなり膝に頭をうずめる。
私の部屋にずかずかとはいってくるよな人物なんて一人しか思い浮かばない。
足音が近づいてくるのが分かる。警報のよう心臓の心拍数があがる。
「…診てもらったのか。」
すっきりしない頭でもわかる。今一番会いたくない人が今目の前に居ることが。
戻ってきた兵士達で兵舎内は静寂とは書く離れた空間になり、傷だらけの泥だらけの兵士兵士で埋め尽くされ医療班がせわしなく動き兵士の中で彼女と共に行動してるであろう兵士を見つけた
「おい。アルミン」
アルミンはビクっと体を震わせて
「リ、リヴァイ兵長。」
「あいつは医療室か。」
今リヴァイが誰を探してるかなど名前を出さずともわかった、だが念の為だった。
「エレンですか?」
意外と肝の座った目をしていた彼の返答に眉をピクっと顰め名前を告げる
「…エミリーだ。」
アルミンはそうだろうと思っていた通りの名前が出てきたことで彼女の姿を思い出した。弱弱しい後ろ姿から苦しいほど伝わってくる罪悪感と後悔が。壁外調査の度にそんな姿なのかと思うくらい彼女の仲間を大事に思う気持ちを理解した。
「医療班に診てもらう方がいいとは…言いましたが。どこにいるかはわかりません。」
「そうか。」
リヴァイ兵長なら彼女の感情を和らげてきっと精神的に支えることも同僚としても…きっと…エミリーの救いになるのだろう。自分にはない強さを持っていて、僕にはないものだ。
アルミンの言葉を頼りに探し回ったが彼女の姿はどこにもなく。最後に自室に向かうことにした。
ノックしたが返答がなく静まり返る部屋のドアノブを握り扉を開け辺りを見渡すがいるような気配はしなかった。念のため全部の部屋を見とこうとしたときだ。
風呂場の扉の手にかけたとき…隙間から見えた彼女の姿に安堵する中で銃口を向けられてるような緊張感を感じた。
「…診てもらったのか。」
身体を縮こませうずくまり何かに耐えしのぐ彼女をみて、こいつは考えすぎる性格はいつからなのか呆れつつも、今にも壊れてしまいそうな彼女の前にしゃがみ込む。
「…エミリー。」
「…。」
この距離で聞こえていないなどないはずだと彼女の返答を待つがいっこうに返答がなく声を上げることなく泣いているのかと思い、フードをとり頭を撫で髪の毛をかき分け頬に手をやるが濡れておらず、それよりも頬を触れた時に熱がこもってることが分かり
「エミリー、立てるか。行くぞ。」
彼女の肩を抱き立たせようとするが払いのける彼女に苛立ちを覚え
「いい加減にしろよ…テメエの身体くらいテメエが一番分かってるだろ。」
ふぅと小さくため息が聞こえ、先ほどまで動かなかったエミリーが顔をあげリヴァイをみることなく、ゆっくり立ち上がり
「大丈夫よ。」
と言ってリヴァイの横を通り過ぎて行こうとするのでリヴァイはエミリーの右肩をつかむ
「…っ。」
痛がるエミリーにバッ手を離し聞く
「何があった。」
「…診てもらってくるね。」
「おい…。」
今のエミリーに何をいっても聞く耳がない、自分の殻に閉じこもって出てくる気配がない。まるで出会った頃のような、拒絶だった。
部屋を出てフラフラと壁をつたって虚ろなエミリーを見つけ兵士たちが駆け寄ってくるが彼女は微笑みむ
「エミリー補佐官…お手をお貸しします。」
「…ありがとう、でも。そこまでひどくないから大丈夫よ。優先すべき兵士がたくさんいるでしょ、自分で行けるわ」
「ですが…」
「ほんとに、ありがとう。」
彼女がそういうが、弱った彼女を見てその場を離れていくことができず。兵士は心配そうにゆっくり歩幅を合わせ少し後ろから見守っていると、その後ろから肩をポンと叩かれ振り返る
「元の配属に戻れ」
「は、はいっ」
先ほど別れた声が後ろから聞こえて壁にもたれ振り返る。
「あら…、兵士長さんはお暇そうですね…」
「…」
「そんな怖い顔しないでよ…」
「…」
様子を伺うようにじっと彼女の顔を見るリヴァイに片方の口角がクイッとあがり嘲笑うような笑みを浮かべる、月夜に照らされたその姿は妖艶でボロボロな姿には似合わなくリヴァイの眉間にしわが濃くなる
「…医務室いくぞ」
「…わかってる。」
「ガキみたいに駄々っ子か」
「あなたからしてみれば、みんなガキに見えるでしょ…」
もたれていた体を進行方向へむけ歩こうとうした時だった、エミリーの目の前にダンっとリヴァイの腕が現れた。
エミリーは一瞬びっくりしたが、ゆっくりリヴァイのほうに顔をむける
「…どうしたの」
「こっちのセリフだがな」
また先ほどのように口角だけあげた笑みを浮かべるエミリーに、見とれながら壁についていた手を彼女の髪を耳にかけ、ジャケットの内ポケットからキラリと光るもの取り出し髪の毛の下に腕を通し後ろでとめるとするっと胸元におちた。
胸元を見て、持ち主のところに帰ったネックレスをみてエミリーが悲しそうにお礼をいったときだった、リヴァイの匂いが強くなり体に圧迫感を感じた。
エミリーは抱きしめられるだけでこんなにも、心がじわっと暖まることを思い出した。それを今まで教えてくれた人のぬくもりを思い出し頬に一筋の涙を流した。
「……エルヴィンに会いに行く。」
「体を休めろ」
「今会いたい」
「あいつは療養が必要だ」
このやり取りでエルヴィンの状態を把握してることはわかった。今エルヴィンは治療を受けてる、命には別条はない…はず…それでも…今エルヴィンに会いたい…。
抱きしめる力を緩め彼女の表情が気になり顔を除くように見ると、一切目が合う事なく遠くの方を眺め何か考えてるのか吸い込まれるような儚い黒い目をしていた。
「はぁ…後で医務室に「駄目だ」…自分だって、後回しにしてたくせに…」
「エミリー。」
「はぁ…今人が多いところに行きたくないの…」
「…俺の部屋で大人しくしてろ、医務班つれていく。」
「…自分の部屋にいる。」
「俺の部屋で、待ってろ。」
「…わかりました。」
言い合うのもめんどくさいかのようなエミリーは、呆れたように眉を下に向けながらリヴァイの顎を人差し指と親指でクイッと上げ睨み上げながら笑ってリヴァイの部屋向かい、リヴァイは医療班の方へ歩いて行った。
綺麗に整えられた部屋。壁には自由の翼が見えるような形でシワ一つもない兵服がかけられ、あの人らしいと思いながら自由の翼の刺繍を撫で、深く息を吸いゆっくり吐く。
綺麗好きなリヴァイ…こんなドロドロな私はどこで待ってろとー?シャワーでも借りようかな…でも服ないし着替えれないし…。
でも今は、体を洗いたい。
洗い場に綺麗に畳まれたタオルを1つ拝借して中に入り頭から水を浴びると頭がすこしスッキリしたような気がした。
1名の医療兵を連れてきて自室には入り辺りを見渡したが待ってろと言ったやつが居ないことに眉がピクっと動き、一緒についてきた医療班にも緊張が走る。
入って少ししてガチャっと洗い場の扉が開きとバスタオル一枚のエミリーと2人の目が合い
「あ…」
やば、…思ったより来るの早かったなぁ…。
ゆっくり後ずさりをして、洗い場に戻りながらバタンと閉める。
リヴァイは後ろにいた医療兵をチラッとみると放心状態でその場に立ち耳を赤らめ固まっていた。
はぁ、と深くため息をつき前髪をクシャっと握り医療兵の方を向く
「お前は、何も見なかった。いいな。」
「…ハ、ハイ!」
怒りのこもったリヴァイ声に怯える医療兵。
「少し、外で待っててくれ。」
「ハ、ハイ。」
急いで部屋から出ていき、それを確認したリヴァイは洗い場の方へコツコツと足を進めドアノブに手をかけて引くと。
先ほどまでバスタオル1枚だった彼女が服をきた状態で髪を拭いていた。
扉が開いたことにより気まずそうな目が合い苦笑いを浮かべている。
「借りた。」
「ああ」
「早かったね。」
「…」
リヴァイ、怒ってる?無表情すぎてわからないんだけど…。勝手に使ったこと怒ってるのかな、さすがにそうだよね…。ドロドロだったし。
「勝手に借りてごめんなさい。」
ぽたぽたと濡れた髪からしずくが落ち白いシャツに水の斑点ができ黒の下着が浮かび上がる。
それをみたリヴァイは近くにあったタオルを取りエミリーの頭にかける
「脱げ。」
「…は?」
「早くしろ」
エミリーは言われた通りゆっくりとボタンを外し始める。リヴァイは後ろを向いて洗い場から出ていく。数分後手に服を持って戻ってきた。
「これに、着替えろ」
「…え?」
エミリーは混乱したまま言われた通りにリヴァイが差し出したグレーのシャツを着る。再度リヴァイは頭にタオルをかけしっかり髪の毛を拭く。
「え?え?」
怒ってるのか怒ってないのかわからないリヴァイに混乱し、されるがままのエミリー。
「待たしてるんだ、さっさとしろ。」
あ、なるほど。そうゆうこと。
先ほどまで兵士に彼女の身体を見られたことに嫌悪感があったが、髪を拭いてるときにエミリーから自分の匂いがすることに優越感を感じながら綺麗な髪を丁寧に拭き機嫌が和らいでいくリヴァイ。
そのあとしっかり医療班に診てもらう、脱臼した肩は冷やし固定された。
「大げさだよう」
「安静ににしてください。脱臼癖ついていしまいますよ。」
「それは困る。」
「でしたら、極力動かさないで下さい。」
「…でも。」
「立体起動装置握れなくなりますよ。」
…思ったより肝の座った医療兵さんですこと。
「治るのにどれくらいかかる。」
エミリーが一番気になってたことを後ろからリヴァイが聞く。
「おおよそですが、全治1週間から2週間ほどですね。個人差ありますが。」
「そうか。」
「あー…しくったなぁー…リヴァイみたいにポンコツになっちゃったー…」
「だれがポンコツだ」
こんな穏やかなリヴァイを見るのが初めてな医療兵は驚きながらふたりのやり取りを見つめながら鎮痛剤の点滴を止めて針を抜く。
「ありがとう。」
「い、いえ…炎症で熱がでてるようなので解熱剤出しておきます。」
優しく笑ってお礼をいう彼女に改めて今自分の状況に驚いている。今まで彼女の治療は特別医療班が担当していた、それがただの医療兵の自分が今診ている状況に、そして先ほ
どの彼女を姿を思い出し耳が赤くなる。
それにいち早く気づいたのはリヴァイだった。
「終わったのか。」
「ハ、ハイ。」
「あ、紅茶でも飲んでいきますか?私淹れますよ。」
「安静と言われただろうが」
「淹れるくらいできるわよ。」
「い、いえ。自分はこれで失礼します。」
「そう、ほんとにありがとう助かった。医務室いきたくなかったから…」
「…医務室お嫌いですか?」
「ううん、そういうわけじゃないけど…今は行きたくなかっただけ。融通…ううん、わがまま聞いてくれてありがとう。」
「と、とんでもございません。では、失礼します。」
ありがとーと利き手とは反対側の手で手を振り出ていく彼を見送るエミリーにリヴァイは腕を組み眺め口を開く。
「素直になる薬でも盛られたのか?」
「…なに。」
「さっきまでは駄々こねるだけだったお前が、今は笑顔まで見せて愛想まで振りまくまでになった」
「…勝手に借りた事怒ってるなら謝る。でもどうしても診てもらう前に洗い流したかったの。」
「…」
「ごめんなさい。自室で浴びてくればよかったね。…でも、ここで待ってろと言ったのはリヴァイじゃない。」
ゆっくり椅子から立ち上がり自分の服を持って部屋から出ようとするエミリーの腕を掴み引っ張る。
「そういうことじゃねえ。」
グっと引っ張られた腕はリヴァイの方に体重かかり受け止められ、息がかかるほどの距離で目と目が合い見つめ合う。沈黙を破ったのはエミリーだった。掴まれていた腕が解放されリヴァイの頬を触り微笑む
「…ただいま。」
リヴァイは満足したような顔で口づけようと顔を近づけようとした時だった。コンコンと扉が鳴り、なかなか答えないエミリーが代わりに返事をしリヴァイは眉を顰めその後に用件を聞き上層部がリヴァイとエミリーを探しているという報告を受けエミリーは苦笑いを浮かべ扉の方に向かおうとした。
「お前は休んでろ。熱も下がってねえだろ。」
「そうはいかないでしょ。」
「いいや、俺が居れば十分だろ」
「なんと頼もしい兵士長さんですことー」
「ここで休んでろ。」
「…じゃ、お言葉に甘えて。」
エミリーは左腕で右肩をなでジャケットを羽織り直し呼び出されたリヴァイを見送り水を貰おうと戸棚に手を伸ばした時だった、先ほどしまったばかりの扉が開き後ろから足音がしたので「忘れ物?」とみることなくなく聞くと。
突然くるんと視界が反転し危うくコップを落としそうになりぎょっとしたエミリーだったが唇に柔らかい感触があり微笑み目を閉じ答え。
離れた「ああ、忘れもんだ。」と微笑みエミリーの頭をくしゃっと撫で部屋を出て行った。
…っ。やり逃げですか…。…はぁ、しんど…。