Natalia
あなたはわたしのからだのどこでもしっているけれど、わたしはあなたのからだをなにひとつしらない。
ゆびは、きもちいい。
わたしはしっている。
くちびるは、きもちいい。
わたしはしっている。
少女は小さく喘ぎながら男の唇を求めた。本能かもわからない。ただ口を重ねることをねだる。男は顔をそらして、少女の耳を口に含んだ。わななく幼い肌を手の裏に感じて男は苦しげに低く唸った。
男は決して少女の唇に触れない。指でこじあげて中を蹂躙するようなことはしても、己の唇、或いはその熱い舌でもって可憐な赤を塞いで、吐息までも奪ってしまうようなことは絶対にしなかった。
無論、この獣(ケダモノ)に慎みなどない。貪ることに熱中して、今もひどく荒い息を巻いている。
それでも一線を越えることはない。少女の内側を犯すようなことは一度もしなかった。ただその薄い肌の上を食らうだけである。
少女がどろどろに溶かされ、与えられ続ける快楽に震えていようとも、男は理性を脱ぎ捨てようとはしなかった。
少女は細やかな愛撫を受けながら、男の胸元に指を這わせた。シャツを掴んで、鳴いている。
彼女はこの服の下にある熱を知らない。一度だって触れたことがない。可憐な爪先が焦れる。
快感にくゆる目元に男は口づけた。獣のような瞳に猛り狂った激情がうかがえた。
「ジャック……」
かつて自分を愛した男たちが望んだこと。苦悶から解放してやるために、その名を呼んでやる。そうすれば、彼らが満たされるのだと知っていた。
息がつまって、頭の中が真っ白になった後に、少女は目をつむった。彼女は息をついた男を抱きしめて、その熱をもって、陰惨な過去を忘れようと努めた。上書き重ねることに変わりないと悟る理性がどこかにあった。
けれど、もうそこに自分はいない。あの日に死んだのだ。自分に言い聞かせては、嫌でも引き戻されそうになった。深い意識の底に沈んでいく。
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