Jack | ナノ


Jack


ジャックという男は、かつて密度の低い日常を送っていた。趣味も持たず、楽しみもない。酒を好まず、女にも打ち込まない。もともとだらしがないのが嫌いで、男の醜態が我慢ならないたちだった。つまらない男だと言われてしまえばそれまでだが、彼は人間が熱をあげる一切のものに精を出さなかった。それまで、いかなる欲望も沸き起こらなかったというわけである。


しかし、ティーが現れて、彼は変わった。今までの『欲望』に対する消極的な姿勢が一変して、貪欲に自身の満足を求めるようになった。本能。ただこの一言に尽きる。


ティーは男の欲を煽る魔性の魅惑を秘めていた。彼女を目の前にした男は皆抑えが効かなくなることだろう。所作のひとつひとつが男の肉欲を煽るのだ。強力な薬の類と何ら変わらない。男の神経を犯す毒だ。彼女を嗜好品と並べて語るには、引き起こす症状が危険すぎる。麻薬と変わらぬ中毒性があった。通常の思考すら妨げられてしまう。思いもしない行動をとらされる。その毒を日々摂取している男をどうして責められようか。当然のようにジャックは恥も忘れて、彼女の肉を食らうことしか頭にない色欲魔と化した。自分が最も侮蔑した人種にまで堕落しつつある。幼い娘の芳(かぐわ)しい色香に溺れて、平静を乱さぬ顔からその心情を読みとることは困難だが、今や男は一人の少女の魅惑にどっぷりと浸かり、其の実息をするのがやっとであった。






[ 1/5 ]

[*prev] [next#]

40/55



BACK



TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -