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一万打御礼作品
赤座さんからのリクエスト




それが望んでいたことかどうかはわからずじまいだ。


「ほら、ニケ、こっち」


誕生日というのは特別な日でも何でもない。少なくとも私からすれば、ただの冬の寒い一日に過ぎない。

それなのに女子供というのは、そういった日をやけに特別にしたてて、前日まではしおらしくして、当日は贈り物だとかを人にせがんだり、祝えと言わんばかりにちらちらとこちらを見たりする。期待を裏切るのは大変心地よいし、そんなものは知ったこっちゃないと一蹴するだけの体力くらいは持ち合わせているのだが、それが自己に向けられ押しつけられるものの場合どうか。


ティーがあの青い大きな瞳をきらきらさせて、はにかむ。


「なんですか」

「なんだとおもう?」

「さあ」


ティーは珍しくいたずらっぽい笑みを浮かべて、にやにやとしている。


「今日はニケの日でしょう?」

「はあ?」

「ね、お祝いしなきゃ」

「しなくて結構」

「だめだよ」


普段の従順さはない。彼女は妙なところで頑固なのだ。


「一緒にお祝いしよ?」


思惑通りにいかないことにむすっとして、すぐににこっとした。


「ジャック、今日はお仕事でいないんだよ」


これは、いけない。

思わず顔に出てしまう。彼女は私の顔が変に動いたのを瞬きもしないで見守っていた。


「……誘っているんですか?」


幼い唇はこんなにも妖しい色をしていたか。男を惑わす小さな口唇がゆっくり動いた。




手をひく小さな少女の背を見つめながら、どうしてこうなったかを考えていた。


日も暮れ、街に暖かな灯りがあちこちに散っている。ティーは珍しくうきうきした様子だった。何がそこまで心躍らせているのか考える余裕が、今の私にはない。


「ニケ、こっち」


小走りに店の中へ導かれる。運動というのが全般に嫌いなことは伝えてある。歩き回るのも例外ではなく苦手なのだが、彼女はすっかり忘れてしまったようである。


「これも、似合うよ」

「じゃあ、もう、それを買いましょう」

「でも試着しないと」

「いいですよ、もう」


鏡の前に立たされ、いろいろな衣服をあてがわれる。自分の顔には疲労の色がはっきりと浮かんでいた。それにも気がつかないのか。
この娘は愉しそうに顔を綻ばせている。




思っていた展開と違ったのだ。


「……誘っているんですか?」

「ニケ、お祝いさせて?」


彼女はいたずらっぽく目をきらりとさせると、私の手を掴んで、家を飛び出した。


そこからが悪夢のはじまりである。


こうして街中の店に連れ回され、彼女の気に入るものが見つかるまで、こちらの足が棒になるのもおかまいなしに探し回るのである。


「ティー……少し……休憩にしませんか……」

「もう疲れたの?」

「……疲れました」


店の椅子に座り込んで、肩を落とした。姿勢を保っていられないくらいには、気力がない。ティーはくすくすと笑って、膝の上にやってきた。


「じゃあ、もう帰る?」


プレゼントも買えたから、と彼女は微笑んだ。


「ニケ、お誕生日おめでとう」


疲労に曇った瞳を向ける前に、彼女は動いた。頬に触れる幼い唇。祝福のつもりなのだろう。離れていった顔は喜色で明るい。


「プレゼントは帰ってからのお楽しみだよ」

「はあ……私を疲れさせるのはあなたくらいですよ」


そして癒すのもまた、この少女であるなどと認めたくはないけれど。






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