jack | ナノ





女がものを食う様に欲情するとは思っていなかった。


最初は何かの間違いかと思った。目が離せない理由は他にある、決して邪(よこしま)な感情はない、きっとそのようなことはないのだと思った。そのような抑圧は、事態を悪化させる一方で、いつしかくすぶっていた種火は大きく燃え盛り、いずれ業火となって、この肉の体を焼くに違いなかった。


一口の小さい、幼い少女の食事は可愛らしいものであっても、性を感じるようなものではない。紅(くれない)に縁取られた穴が蠢いて、下品にものを吸い込んで、出し入れするわけでもない。それどころか、品の良い唇は度々舌がちろりとするだけで、口にしたものを二度と現す様子もなく、静かに緩んだり引き結んだりを繰り返している。


俺はあの柔らかさを知らない。


事実、少女をいくらあばいても、その先、その奥へと進んだことはなかった。不埒な幼い裸婦を前にして味見で手をとめ、まごついているのである。


腰元にも及ばない小さな身体をかき抱くことに激しく熱をあげる、邪淫を好む己の本性が苦しいと訴えてくる。この渇きを堪え忍ぶ道理はない。今あの娘を穿つも穿たぬも変わらない。違いなどない。手前はとっくに少女を汚している。何を守っているか知らないが、手前のしていることは、既に娘を犯していると同じなのだ。何を躊躇している。狂気に身を任せろ。認めろ。お前は〈奴ら〉と同じだ。


薄汚れた畜生は生臭い息を吐きながら、獣らしい冷徹さをもって、落ち着きなくその場を練り歩き、理性が削れゆくのを待っている。


瓦解は近い。きつく結びつけていた理性の縄がじりじりと焼き焦がれていくのがわかる。ぷつりといけば、あっというまに均衡は崩れさるだろう。


正気と狂気の境目に揺らぐ。肉の色が濃い少女の唇が水滴を浮かべるだけで、おかしくなりそうになる。頭の中で、何度も少女を抱いた。狂ったように名を呼んで愛で犯した。


「ティー」


慣れたはずの沈黙に水を差したのは、これ以上淫らな妄想を続けるべきでないと判断したからである。しかし、考えなしに声をかけただけに、言葉が生まれてこない。


「……どうしたの?こわい顔してる」


いとけない指先が、頬へ伸びた。その何気ない行動が命取りになることも知らないのだ。馬鹿め。獣の口元に手をやるやつがあるか。


「俺が、こわくないのか」


その手を顔へ引き寄せた。華奢な手首を掴んで強引に口づける。碧(あお)い瞳は静かに瞬いて、長い髪が音も立てずに流れ落ちた。ゆるく頭(こうべ)を振る。恥ずかしそうに、娘は俯いた。


「すきだから、だいじょうぶ」

「……え」

「ジャックなら、いいの。こわくない。ジャックは、特別なの」


珍しく、照れて、少女は首から耳まで真っ赤になった。黙っていれば、きゅっと唇が固く絞られて、薄い眉尻が少しずつ下がっていった。


「ジャック……?」

「……ああ」


邪悪な心の前で、これは何を言うのだろう。細胞がぶるぶると震えている。そっと、折れそうな体を抱き寄せた。狭い肩口に顔を埋める。柔い髪からは甘い香りしかしない。


よろこびに、胸が震えた。このまま、少女の中に溶けて、消えてしまったってかまわない。


その体を欲してやまない。けれど、今は、その体に取り込まれてしまいたい。


「食べてほしいと思ったのは、お前が初めてだな」

「え?」

「なんでもない……」


今はただこのままでいたい。








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