jack | ナノ





頬に触れた手があたたかい。肉の薄い、骨筋張った手の甲は古傷が多い。けれど、ほどよく乾いていてさらりとしている。


このように熱を持った手だっただろうか。少女は薄く唇を開けて、天を仰いだ。記憶がはじめて触れられた時と重なる。遠い昔のことのようなのに、思い描けるほど覚えていた。


男は、今と違って冷たい目をしていた。怒りに彩られた悲しみの滲む、淡い青。苛立ちを露わにした男の顔に浮かんでいたのは、深い悲しみだった。物言わぬ少女を押さえつけて、柔肌を勢いのまま暴き、無体を働いた。はけ口のない憎しみがそうさせたのだろう。薄く、骨ばかりの子どもの体を、それでも一度欲しいままにしようとしたのは、拭えぬ恐れがあったからか。少女から全てを奪い、手酷く犯し、心も体も踏みにじるつもりだった。その最中、冷え切った心に迷いが生ぜたのは、少女に対する哀れみがあったからか。或いは、なけなしの道徳心が男を正気に戻したのか。少女にわかるはずもない。男は決して語らぬ。少女が問うこともない。わかるのは、男の発する熱、息づかいだけなのだ。


頬から離れようとした指を少女は両の手で追いかけて捕まえた。


「どうした?」

「…………」


少女はしおらしく目を伏せて、男の熱を感じている。いつものことだ。彼女は余計なことを語らない。望むならくれてやったっていいつもりで、男はただされるがままに手を貸してやっていた。


「ジャックは」


少女は昔に思いを馳せた。男の過去は知らない。知っているのは出会ったばかりの彼だけだ。瞳は悲痛な色をしていた。目の前で自分を見つめる眼差しは優しい水色をしている。彼は変わった。


「このままでいて」

「……ああ」


あたたかい手に包まれたまま、少女は静かに微笑した。







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