jack | ナノ





何を望むのか。知らないわけでもない。


少女は艶やかな唇をゆるく開けて、男から差し出されるままチョコレートをひとかけ奪った。ぱきっと小気味の良い音が鳴って割れる。柔らかい口唇の花びらがめくれて、緩慢に動いた。かたいままのそれが少女の中に吸い込まれていく。舌でゆっくりと転がし、よく味わう。伏せたまつげの先まで、少女は従順だった。熱に溶けて、甘さが口の中に広がるころには、男の不埒な指がいとけない顎をつまんで、引き寄せた。


「うまいか?」


男は背を丸めて、少女の顔をのぞきこんだ。長い指を生き物のように娘の冷たい頬に滑らせて、爪の甲で撫で回す。少女が飼い猫らしく顔をすり寄せると満足そうに「そうか」とつぶやいた。


今一度、手製の菓子を少女に与える。可憐な乙女の赤をそっとさいて、親指でおかした。


「あ…………」


チョコレートの甘い香りのするものは、外側を歯で砕けば、中からとろけた蜜が溢れさせ、泡のように消えて、少女を驚かせた。


「おいしい……」


ふっと男が微笑する。隙間なく腰をぴたりと抱き寄せて、もうひとつとその甘美な実をつまんだ。右の親指と人差し指。少し力を加えるだけでよい。かためた殻を壊せば、内部からとろとろと金色の粒子を含んだミルクブラウンのクリームがもれた。


少女は命じられるまでもなく、男の指を求めた。そっと親指の付け根をついばむ。幼い舌から、吐息がもれて、男の手首をあたためた。


はじめは自由にさせていた男の方も方も途中でたまらなくなって、手を引いた。代わりにきれいなままの左手が少女の背にまわって、うなじをとらえた。


刃を思わせる眼光に貫かれて、少女は一瞬間息をつめた。静的な空気の中で心臓だけが激しく脈打っている。次は自分の番だと悟って、少女はその胸元に男を迎え入れた。彼女が差し出すのは、洋菓子のような甘ったるいものではない。


貪り食われ、散らされ、すべてをあばかれた。熱にほどけていく。







[ 26/30 ]

[*prev] [next#]





BACK



TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -