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その涙は固かった。


瞳からこぼれた涙は意外なほど すとん と落ちた。柔らかさはない。表面は滑らかで、あっさりと静かに一粒二粒と落ちていった。


痛みはなかった。身体にも心にも苦しいものは感じられない。不思議なまでに落ち着いていた。けれど、滴(しずく)は止まらない。少年はあたたかくなった鉛筆を置いて頬を拭った。手の甲が濡れる。涙は溶けて、水になった。


「いつもはもっと柔らかいのに」


不思議だ、とひとりごちる。返答する者は誰もいない。


机を離れ、寝台にもぐりこんだ。柔らかな寝床はいつだって少年に優しかった。


平らの胸の上に手を乗せて、たむ たむ とゆっくり叩く。昔、母がこうして自分をあやしてくれた。少年は仰向けのまま、再び涙をこぼした。水の筋が、つうと頬骨の上を横ぎっていく。耳の中に入って、気持ちが悪かった。


少年は顔をくしゃくしゃにして、押し殺した声で嗚咽した。枕に顔を埋めて、音にならぬ絶叫を繰り返した。


ぽかりと空いた風穴はまだ塞がらない。








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