整った顔がぐっとこわばった。ひどく肩を揺らし、大きくせき込んでは、忌々しそうに顔をしかめる。
「ジャック……」
ティーは不安げな顔でジャックの背を撫でて、その体が落ち着くのを待った。彼は熱のこもった目で少女を睨んだ。
「近くにいるな。うつるぞ」
指の長い綺麗な手が弱々しくティーを掴む。すがっているようにさえ見えた。言動が一致しないのは、この男によく見られる症状であることを彼女は学んでいる。手をやさしく握ってやれば、ジャックは切なそうな顔をした。
「だいじょうぶ」
「大丈夫じゃ、ねえよ」
言葉に反して男は少女の手のひらを受け入れたままいた。
「お水、持ってくる」
小さな手がするりと抜けて、指から離れた。それを男の手は勢いのまま強く留めた。握った手首はあまりにも細く頼りない。しかし、それでも彼はその小さな体を引き寄せて、再び頭を預けた。
耳まで赤くなったのは男の方だった。少女の胸に埋めて隠しても意味はなかった。ほんのり紅に染まった耳を、ティーは指でなぞった。
「水はいらない……から……」
こうしているだけでもかまわない。男は目を閉じた。弱った肉体は精神をも蝕んでいるようだった。男は熱っぽく少女の名を呼んだ。
ティーは子供をあやすようにジャックの首の根を撫でていた。
苦しげな息を繰り返して、男は少女を抱きしめた。男の体温は服を貫いて、幼い体に伝わりゆく。
「ジャック、横になって?」
「お前は……?」
逃がさないと拘束する太い腕に力がこもった。大きな子どもが駄々をこねている。ティーは微笑んだ。
「ジャックの隣にいる」
男は低く唸って、少女を抱き込んだまま寝台に沈んだ。脚が絡みついて、手が細い体の上を這った。
「眠って……?」
ごそごそと胸の中でジャックが動く。苦しくないか心配しながらも頭を抱くと、身じろぎをやめて大人しくなった。
「おやすみなさい」
深い眠りにつくまで後少し。荒い息づかいが穏やかなものに変わるころ、少女に男の風邪がうつってしまうのは、また別のお話。
[ 17/30 ]
[*prev] [next#]