時々、この少女は俺を挑発しているんじゃないかと思う。
「ジャック」
ソファに身を乗り出して、ティーが抱きついてくる。構え構えとねだる声が甘く響く。長い髪が揺れて、耳をくすぐった。
「ジャック」
「なんだよ」
「あのね、今日はいたずらしてもいい日なんだって」
「あぁ?」
「呪文を唱えて、脅すの」
「呪文で脅すのか」
「うん。それでお菓子をくれない人にはいたずらしていいんだって。ニケが教えてくれた」
「ふうん」
柔らかい腕に首を押さえられたまま新聞を読む。くだらないと一蹴しないのは、ティーが相手だからだ。誰の入れ知恵だろうが関係ない。どんなふざけた話にも少しくらいは付き合ってやる。
「ジャックはお菓子をくれる?」
声色が妖しく艶めいたような気がした。
「それとも、ティーにいたずらされたい?」
真一文字に引き結んだ唇に、いとけない指先が触れる。なぞって、誘う。
「お前に、何ができる?」
長い髪をはらって。顔を寄せて。唇がこめかみをかすめ、耳を食む。どこで覚えてきたのだろう。それとも自分が仕込んだものか。わからない。今ならまだ「悪い子だ」と一言。たしなめることも、もちろんできる。それをしないのは、この少女をあますことなく味わいたいから。
「いたずら、するんだろ?」
「……っ……ん……」
白い腕に舌を這わされただけで体を震わすようでは、きっと何も満足にできやしないだろうけど。
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