眠っている少女の体の白さにぞっとした。鈍色の分厚い雨雲から届く弱々しい日の光がその肌を更に青白くして、限りなく生から遠いものにしている。普段は赤い頬もすっかり色を失ってしまっていた。
死人に触れたいと思うほど、異常な性癖は持っていないつもりだ。しかし、こればかりは。
好奇心に駆られて、小さく膨らんでは沈んでいくその胸に静かに耳をあてた。耳をすませば、その体の音がはっきりときこえた。それは、愛らしい外見にそぐわぬもので、心臓が収縮し、血の巡る音ときたら、いやに生々しく、生きているというよりあがいているように思われた。ゆっくりと体を離して、少女の顔を近くで見る。不思議なくらいに、美しい。
白い頬を手の甲で撫でた。ひんやりと滑らかだ。ぺちぺちと軽く叩くと、長いまつげが震えて、ようやく大きな瞳がその色をみせた。
ティーは何度か瞬きを繰り返した。
「ジャック、仕事は終わったの?」
寝ぼけた声で、むにゃむにゃとする。
「終わったよ。ほら、手、貸せ」
半ば強引に手首を掴んで、立たせた。
「冷たいな」
鳥肌のたった冷たい皮膚。薄い布地の服に、小さな胸の突起が浮かんでいる。
「寒くないのか」
「さむい」
「……あたためてやろうか」
「ん」
ティーは素直に頬をぴたりとくっつけてきた。どきりとする。これは気まぐれに自ら身を委ねて、甘えてみせるのだ。引き離して、抱き上げた。騒がしくなった心臓の音をきかれるのが嫌だった。
「寝るならベットで寝ろ」
「はあい」
もちろん寝かす気などないのだけれど。
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