普通の恋愛

その後、真選組屯所へと戻ったまゆは山崎に事情聴取をされ軽く3時間ほど拘束をされた。
相手の人相や何をされたのか、その他諸々聴取され、まゆは大人しくその問いに答えた。その中で、酒を飲みながら何を意気投合したのか?と言う質問があったが、その質問だけにはまゆは嘘を織り交ぜながら言葉を返した。あの時、酒を飲みながら話した内容は土方のあの怪我の事、そして自分が狙われていたという事実。けれどもまゆはそんな事聞いてない、とでも言うように山崎の問に返答したのだ。

そして、漸く山崎の事情聴取が終わり開放された頃にはすっかり空は黒く染まり、星が綺麗に瞬いていた。そのしんと冷えた空気を肺いっぱい取り込むと、まゆは「よし!」と気合の入った声をあげて自室の隣、要は土方の部屋を目指した。

「十四郎?起きてる?」
「あぁ、入れ」

すぐに返って来た返事に襖を開ければ、そこにも着流しを着込んだ土方がいて、優雅に煙草を吸っていた。そして彼が肘を付いている机には握り飯と卵焼き、あと軽くつまめるおかずがラップを掛けておいてあって「ん」とそれを顎でしゃくる様に合図された。

「あー助かった。お腹空いていたんだ」
「茶でいいか?」
「うん」

どっこいしょ、と腰を下ろしラップを外しおにぎりに齧り付く。塩加減の程よい白米に具はシソ昆布だ。美味い。土方の淹れてくれた熱々の緑茶をすすりつつ、まゆは黙々と用意された飯を胃へと流し込んだ。

「あー、人心地ついたー」
「攘夷浪士と何か飲んでるからだ」
「いいじゃない。お陰で意気投合出来たんだから」
「警察としてあんま褒められたセリフじゃねぇよ」
「そう?」

あはは、と軽く笑い、残りの緑茶を啜りきれば、そのタイミングを待っていたかの様に土方が煙草を灰皿に押し付け、ぐっと姿勢を正しこちらへと向いてきた。何だか思ったより物々しい雰囲気に包まれ、釣られてまゆもぐっと姿勢を正した。

「………お前、何処まで聞いたんだ?」
「何処までって言われても…一応、今まで狙われてたのは私だったって事実ぐらいかな」
「………そうか、黙っててすまなかった」
「あと」
「?」
「十四郎のお腹の怪我。それは私の所為だっていう事」
「!ち、違っ!これは俺の不甲斐なさで!!」
「けど、私の命を狙ってる浪士と斬り合って負った傷には変わりないんでしょ?」
「っ、」

遇の値も出ないのだろう。押し黙るように唇を噛んでしまった土方にまゆは困った様に笑うとすっと人差し指を突き出し、彼の唇にちょんちょんと触れてみた。
すると、今にも捨てられそうな子犬の様な目で自分を見てくるもんだから、堪ったもんじゃない。

「そんな顔しないで十四郎」
「………俺は、」
「うん」
「俺は…お前と別れたくねぇ」
「…うん」
「だからお前を暗殺する動きだって黙ってたし、怪我したことも黙ってた……じゃねぇと、怖がってお前が俺から離れていっちまいそうで…」
「うん」
「近藤さんや総悟…真選組全員に黙って貰うよう頼み込んで…万事屋にも…」
「うん」
「これから先、ずっと傍にいるように…その為なら暫く会えないのなんか我慢できっし…だから全て片付いて落ち着くまではお前の傍を離れとこうと…」

人差し指で触れている唇が震えている。
基本怒ってるか不機嫌な感じかどちらかな、あの土方十四郎の弱々しく辿たどしい発言に心臓がキュンとなってしまうが仕方がない。今までの彼からしたらレア中のレアな感じなのだ。けれども、別れてからはこういう彼を何度か見てきていて多少は免疫のついたまゆはイケメン狡い!とぐっと内頬を噛み締めるとキュンキュン鳴る心臓を落ち着かせた。

「十四郎」
「まゆ」
「今まで護ってくれてありがとう」
「っ、」

そう伝えた瞬間、彼の腕が伸びてきて、かき抱く様に抱きしめられてしまった。
安心する温もりに腕の力強さ。このまま全てを無くしてもこの安心感は手放せないと思う程。それにまゆもゆっくりと彼の背中に腕を回すと、負けじと強い力で抱きしめ返した。その態度が良しと取られたのだろう。肩口に顔を埋めていた彼の頭がもぞもぞと動くと、ちうちうと首筋に吸い付いてきたのだ。ぞくぞくと腰から湧き上がる快感に覆わず身震いしてしまい、甘い吐息が口から漏れ出た。

「まゆ、好きだ」
「っ、んン」
「まゆ、まゆっ、」

首から徐々に耳元へと這い上がってくる唇。
このまま身を委ねたらどんなに気持ちがいいのか、この体は知っている。余すことなく全身に口づけをされ、彼の力強い律動に溺れるのだろう。その快楽を味わいたい。むちゃくちゃに暴かれ、この身を翻弄して欲しい。
背中に回されていた手が、自然な動きで前へとやってくると、やわやわと胸を揉みしだきだした。そして耳たぶへのキスが鼻先へと移動してきて、彼の猛禽類の様な鋭く、熱に犯された目がまゆの目を射抜く。

「まゆ」
「っ、」

吐息を吐くように名を呼ばれれば脳すら震えた気がした。そしてあと少しで唇と唇が触れ合う…という時だった。まゆの細い指がその唇を拒んだのだ。

「…十四郎」
「っ、まゆ?」
「……ごめん、無理」
「っ、」
「これ以上は…無理」
「な…んで」
「……ごめん」

困惑気味の土方を他所にまゆは抱きしめていた拘束をそっと解くとずりっと少し後ろに下がった。そして呼吸を整え、姿勢も正すと、真っ直ぐと彼を見やったのだ。

「十四郎。何で私に何も教えてくれなかったの?」
「…」
「護ってくれてた事は嬉しかった。けど、何で教えてくれなかったの?何で一人で勝手に解決しようとするの?私そんなに信用ない?」
「違っ!」
「確かに攘夷浪士と一戦交えろって言われても勝てないとは思うけど、見くびらないで欲しい」
「…まゆ?」
「自分の命が狙われてるからって、好きな人置いて逃げるような女だと思わないで欲しい」
「!!」

言いたい事はそれだけだから、そう言って席を立ち部屋の外へと出て行ったまゆを土方が目を丸くして見送る羽目となってしまったのだった。



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