昨日の敵は今日の友



ぴちゃんと雫が滴り落ちる。
もう使われなくなった倉庫では何処からか水が滴ってきて地面を濡らす…なんてよくある光景だが、今回のこの「ぴちゃん」と言う水滴音はそういう意味の水滴ではなかった。

「ちょっと!もう酒無いんだけど?!」
「え!?もうですか?!」

グラスの中になみなみ注がれた酒。一升瓶からグラスに注ぐその酒が最後のひと雫となり、の「ぴちゃん」だった。
ちなみに一升瓶片手に酒がないと管を巻いているのはまゆで、こき使われているのは誘拐犯の下っ端である。

「おいおい嬢ちゃん、飲みすぎじゃねぇか?」
「はあああァァ!?飲みすぎ?!これが飲まずにいられるかっての!!わかんないの?!あんたには!!」
「いやいや分かる分かる。元恋人のあの土方の野郎に放っとかれ、別れたと思いきや復縁を迫られ、断ればストーカーになりレイプされ監禁され…そうだな。飲まなきゃやってらんねぇな」
「でしょ?!分かるでしょおじさんにも!!」
「当たり前ぇだ。俺にも嬢ちゃんより少し幼ねぇが娘がいんだよ。今は田舎の方で暮らしちゃいるが…その愛娘にそんな野郎がいたとしたら、腸引きずり出してぶっ殺してやんだろうな」
「なんて頼もしいお父様。うちの父はそういう系じゃないからなー警察に通報するぐらいだろうな。てかその警察のストーカーだってーの」
「がはははは!世も末だな!!」
「本当だよねー!!!」

ぎゃはははは!と笑い酒をあおり、アタリメをしゃぶる姿はどう見ても人質っぽくはなく、どちらかと言うと物凄く意気投合していた。

「お、お頭。もう酒はねぇっすよ…」
「なら買いに行って来いよ。嬢ちゃんがまだ飲み足りねぇってっんだ」
「えー?そいつ人質ですよねぇ」
「人質だけどよ、話聞いてみりゃ俺らと同じくあの土方の野郎を毛嫌いしてるじゃねぇか。真選組の野郎共を一掃するまでの間ぐらい好きにさせてやってっもいいだろ」
「まー…お頭がそう言うなら…」

上機嫌で一緒になって酒を飲んでいるお頭に子分は従うしかない。ここ最近攘夷だなんだと愛おしい家族を田舎に送り出しての活動だったので、この女に自分の娘を写しているのだろう…そう思った下っ端はコンビニ近くにあったっけ?と袖にいれた小銭を数えると倉庫の外へと出た。

「酒が到着するまでの間はこれで勘弁してくれな」

そう言ってまゆの目の前に出されたのは熱々の緑茶で、せっかくの酔いが覚めてしまう、と思いつつ。味の濃いアタリメの所為で喉は乾いているので渋々それを受け取った。

「ってか嬢ちゃんも大変だな」
「そうでしょ?まさか私がストーカーの被害者になるとは思わなかったわ」
「ん?まァそれもあるけどよ。この一年…ずっと怯える生活してたんだろ?」
「…………は?」

ま、怯えさせてんのは俺ら攘夷なんだけどよ。と一人笑う男にまゆは首を傾げると「何で?」と酒で少し舌足らずな言葉を述べた。

「なんでって、そりゃこうして攘夷浪士に嬢ちゃんの命狙われ続けてんだから…」
「?私の命?」
「そうだろ?ここ最近じゃ攘夷浪士のターゲットは真選組副長土方の首っつーか嬢ちゃんの命だったわけだしよ」
「…え?」
「ま、そんな事言って俺らも嬢ちゃんの命狙ってこうして誘拐してんだけどな!がはははは!!!」

あー笑った笑った!と熱い茶を啜る男にまゆは「ちょっと待てー!!!」と渾身の力で野郎の胸ぐらを掴み上げた。

「ちょっ!どういう事よ?!私ってば命狙われてたの?!誰に?!」
「へ?じょ、攘夷浪士の連中…に」
「何時から!?」
「い、一年ぐらいに、なんじゃねぇか?」
「おじさんも私の命狙って誘拐したの?!」
「へ?」
「交渉材料にしようとかの目的じゃなくて殺害が目的で誘拐してきたのかって聞いてんのよ?!」
「そ、そうだけど?!」
「まじかよォォォォォォォォォォォ!!!!」
「今までそういう雰囲気感じなかったァ!?」

四つん這いになって項垂れるまゆ。
最初に散々殺すぞと言っていたのに、何をいまさら…と男はヨレた胸元を正すと、彼女の空になった湯呑にもう一度熱い茶を注いでやった。そして、項垂れているまゆの
目の前に差し出す。

「ほれ、少し落ち着け」
「優しくすんな、この殺人鬼」
「お前その殺人鬼と楽しく酒飲んでただろ?!」
「だって本当に殺人鬼だと思わなかったんだもん!!」
「いいから兎に角落ち着けって言ってんだ!」

ばしっと頭を叩かれさ正座を強要させられた。
ってか可笑しくないかこの状況。何で自分を殺そうとしている奴に説教されなきゃなんないんだ、とまゆはじとっと目の前の男を睨みつけると、まだ熱々なお茶を少しだけ啜った。



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