予測と憶測



ぐちゃぐちゃと目の前を往復するスプーン。
そのスプーンのおかげでドリアはゲロの様になってしまっている。流石に目の前に座ってとんかつ定食を食べていた銀時から「その行為をやめなさい」と注意を受けてしまった。

「んで?知りたかった事は知れたのかよ」
「……まーね」

やめなさい、と注意を受けても止まらないスプーン。それはまるで自分の中の感情を表している様で、ぐちゃぐちゃになったドリアはきっと自分の脳みそだ、と思った。

先ほど、銀時と大江戸病院に行った。最初に入った病院がビンゴだったようで、取材の名目の元、数ヶ月前土方十四郎が其処に入院していた事実を知れた。そしてその怪我の度合い、誰にやられたかもだ。

正直に言って、生死を彷徨うほどの物だったらしい。一ヶ月近くも寝たきり生活を余儀なくされ、そのあと3ヶ月もリハビリを行ったらしい。ちなみにあの男にそんな傷を負わせたのは言わずもがな攘夷浪士。その事実にまゆはぐちゃぐちゃとドリアをかき回す。

そもそも攘夷浪士が犯人と言う事は驚かない。彼が怪我を負うなら相手は攘夷浪士だろうと目星は付いている。その理由も簡単で彼は真選組の副長だから。だがここからが分からない。何故その事実を皆、自分に隠そうとしているのだろう?ただ単に自分に報告しなかっただけ、と言うなら納得できるが、真選組屯所にあった資料を見ても彼が怪我をした事実は伏せられていた。そこから考えるに彼の怪我は自分だけではなく周りにも隠さねばならない事だったのだろうか?けれどもその場合、病院にも手を回し、いくら取材と言えども今日、自分に事実が漏れることはなかっただろう。これは一体どう言うことなのか…。

「ねぇ銀時」
「あー?」

人の奢りと言う事で遠慮なく特大とんかつを注文していた彼の口が大きく開かれ、ボリューミーなカツを頬張る。たっぷりと掛かったとんかつソースで口端を横しながら食べる姿は子供の様で、でもなんだかとても美味しそうに見えた。

「銀時は知ってるのよね?」
「…何を?」
「私が知らないこと」
「…」
「私が持ってないピース」
「…さー?どーだろ?」
「そのピースを一つ1万で買うって言ったら?」
「っ」
「売ってくれる?」

もぐもぐと一生懸命粗食していた口がピタリと止まりまゆの顔を見てきた。その瞳の奥には一万円札が見える気がする。こういう時銀時は扱いやすくて助かる。いや、けれどもそのせいで土方に5万で人の個人情報を売りやがったので褒められたことではないが…。

まゆの交渉に銀時はゴクリと口の中の物を飲み込むと少し考えるふうに、じっとまゆの目を見てきた。そして「俺、知ーらね」とあっけらかんと言ってきたのだ。

「いや、知ってるでしょ?十四郎の怪我の事」
「知ってるよ?怪我してたんだろ?攘夷浪士に斬られて」
「そこじゃない。何で私に黙ってたの?」
「恥ずかしかったんじゃねぇの?鬼の副長とも恐れられてる野郎が斬られただなんて。恥ずかしくて言えたもんじゃねぇな。俺なら切腹するね」
「あんたがそんなタマか」
「俺だってこれでも侍よ?」
「遠の昔に腐ってるけどね」
「ひでー」

この言い方じゃ、きっといくら金を積んだとしても教えてくれないな、と理解すると、まゆは再びドリアをスプーンで混ぜ始めた。

金にがめつい銀時でさえ口を割らない。やっぱりそこには重大な秘密があるのだろう。
と、なると、自分はその事を暴こうとしてもいいのだろうか?もしかしたら幕府と関係するような重大な秘密なのかもしれない。一般人にはしれてはいけない。真選組の資料にも残しておけない。何か重大な…そういう事なのかもしれない。
そこまで考えて、ふとある言葉を思い出し手が止まった。

"お前がこれから辛い立場になろうとそんなの構わねぇって!!俺の傍にいればそれでいいって!!そう思って……そう思ってお前に会わない6ヶ月間の期間を作った!!"

「?」
「どうした?」
「…ううん、何でも…」

可笑しい。
もし本当に今の自分の推理の様に幕府に関係するような機密事項ならば、先日の彼の言葉は可笑しい。
何だろう?何が足りていないのだろう?今自分が持っている情報の中で足りないパーツ。
攘夷浪士に恨みを買って致命傷な怪我を追った。真選組では珍しくない話だ。筋も通っている。なら、何故、自分に教えることが出来ないのだろう?

「まゆさーん?いい加減ドリア食べないのー?神楽のゲロみたいになってっけどー?」
「ちょっ、食欲失せるような事言うの止めて」
「んじゃゲロ製造すんの止めろ」
「わ、わかったわよ!食べるわよ!食べればいいんでしょ?!」
「おーおー早く食え。なんだか雲行きも怪しくなってきたからな」
「は?雲行き?」

そう言われ、ファミレスの窓から見える空を見上げたが、雲なんて一つもない天晴れな程の晴天だ。

「いーからいーから。銀さんの天気予報は当たんだよ。早く食え」
「?うん」

パクパクとかき回していたドリアを口に収めていくのを横目に、銀時はファミレスの窓から外を見た。其処に見えたのは刀を差した浪士風情の男が数人、こちらの様子を伺っている姿。
実は先ほど、屯所を出る際に隊士から耳打ちをされていたのだ。「彼女を狙う不穏分子がいる」と。きっと大方、真選組副長の恋人に悪さをしようとする攘夷浪士なのだろうが、可哀想な事に今の彼女はあの男の恋人ではない。けれども、元恋人だろうが、現恋人だろうが攘夷浪士には関係がないのだ。あの土方十四郎という男にダメージを与えられさえすれば…まゆの今のポジションなんか関係ない。

「食ったら寄り道しねーで帰んぞ」
「はいはい」

坂田銀時とて、土方十四郎の気持ちが分からないでもない。副長という身分の所為で彼女の命が狙われている。その事を彼女が知れば自分から離れていってしまう…と。だが………。

もう隠し通せないかもよ。土方くん。

ファミレスの周りを取り囲む浪士共に銀時は小さく溜息をつくと、何も知らず、パクパクと必死にスプーンを口へと運ぶまゆに小さく苦笑を零した。



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