真選組屯所



「やぁ!よく来たねまゆちゃん!!」
「…………どーもー。糞嫌ですがお世話になりますー」
「がはははは!そう言わんでくれ!」

真選組特集の話を聞いたその日の夜。まゆは部長に言われたとおりその日の夜には真選組の屯所の門をくぐった。
出迎えてくれたのは近藤で、彼の後ろには「まゆちゃん大歓迎!」の横断幕が見れた。

「はぁ……早速今後のお話をしたいのですが…」
「分かってる。あ、そうだ部屋なんだがな」
「あ、前に使っていた部屋を使わせて頂ければ」
「うん、そうなんだが…あれから真選組の隊士の数も増えてあの部屋はいま埋まってるんだ」
「…え」
「正確には今空いている部屋はない」
「……はぁ?!」
「だから俺か、隊長格の誰かの部屋を間借りする感じで…」
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁあ!!!」

一人で話を進める近藤にまゆが待ったをかける。びしっと突き出された手のひらに近藤は申し訳なさそうに眉を下げると、こくんと一度頷いた。

「近藤さんか隊長の誰かって…え?どういう??」
「俺や隊長格の奴なら仕事部屋と自室を二つ与えられてんだろ?だからその片方を使ってくれってーか」
「え、ちょ、それって襖の隔たりはあれど同じ部屋ってことですよね?!」
「まぁー……そうなるかな」

平然とさも当然とそう言ってくる近藤に殺意しかわかない。
ってかこれは図られている。どうせこのまま土方の部屋にでも誘導する気なのだろう。そんなの御免だ。

「じゃ、じゃあ!布団部屋でも倉庫でもいいんで!そっちを貸してください!!」
「え、いや、けど布団部屋は文字のごとく布団でいっぱいだし、倉庫は蔵だからとても寝れる場所じゃ…」
「それでもいいんで!」
「いや、それは流石に…」
「ってか男とほぼ同室って警察が何言ってんですか!!!」
「けどほら、俺らその警察なんだし!間違いなんて起こらないって!」
「その警察が先日私にレイプ紛いのことして貴方頭下げたばっかでしょう!?」
「そ、それはそうだけど…」

梃でも譲ろうとしない近藤とまゆ。そこへ助け舟を出したのは予想外な人物だった。

「おい、何やってんだ近藤さん」
「あ、トシ!」
「!?」

声のする方へと振り返れば通りかかった土方がこちらを見ていた。出たな悪の権化。

「いや、まゆちゃん部屋の説明をだな…」
「あぁ、その事か。大丈夫だ近藤さん。部屋の準備は出来てる」
「え?!」
「まゆこっちだ」

そう言うとまゆが持っていたキャリーケースをヒョイと片手で持ち上げて歩き出した。そっけない態度だが部屋を準備してくれたと言う言葉にまゆはほっと胸を撫で下ろすと近藤にぺこりと頭を下げてズンズンと歩く土方の後ろへと小走りで向かった。

「それにしても、昨日の話じゃまだ特集の案が上がっただけと言ってたが…随分と早く決まったもんだな」
「…………そーですねー」
「…なんだよ?」
「裏で手まわしたのトシじゃないの?」
「は?何言ってんだ。そんな暇ねーし、そんな権力もコネも俺にはねぇよ」
「…………」

心外だ、と言わんばかりの土方の態度に、あれ?本当に違ったのかな?と首をかしげる。それに確かにいくら真選組副長といえど出版社に圧力をかけるコネがあるとも思えない。流れ的には真選組から警察庁へ、そして出版社への圧力かとも思ったが、警察や幕府から煙たがられている真選組の言う事を警察庁が聞くとも思えないし…自分の早とちりか?とまゆは先を進む土方の背中を見て歩く。
すると、一つ襖の前で彼の足が止まった。
この場所は知っている。
真選組副長土方十四郎の自室だ。

「……………トシ」
「なんだ」
「ここ、トシの自室」
「そうだが?」
「チェンジ!!」
「何がチェンジだ。中は空っぽんにしたから好きに使え。俺は隣の副長室を使うから」
「だからチェンジだってーんだろ!!」
「他に部屋がねぇんだよ!んじゃ何か?!総悟の部屋でも使うか?!」
「それも嫌だ!!寝てる間に何されるかわかったもんじゃない!!」
「なら此処で我慢しろ」
「だから嫌だってんだろーが!お前だって私に何するか分かったもんじゃねぇ!!!」
「何もしねぇよ!!ってか、……何かしたくても、嫌われたら元もこうもねぇから…出来るかよ、」
「………」

どんどん語尾が小さくなる男。その横顔を覗きみようとすれば、がらっと襖を開けて部屋の中へと入っていってしまった。

「おら、荷物ここに置いとくから、好きに使え」
「………はい」

どさっと部屋の隅にキャリーケースを置くと廊下へは出ずに隣の部屋へと繋がっている襖を利用し副長室へと行ってしまった土方。それにまゆはほぅ、と小さなため息をつくとぺたりと部屋の真ん中に腰を下ろした。

確かに彼の言う通り、彼は自分の嫌がることはしてこないだろう。あの体を重ねてしまった日以来、そういう行動は一切ない。ちょくちょく会いに来ると言うストーカー行為はあれど。
なのでまゆは彼の部屋を使うのが一番安全なのかな?と考え直すと鞄の中から仕事道具を一式取り出した。そして隣の部屋にいるだろう彼に声をかける。

「トシ、また暫くよろしくね」

すると、あぁと返って来た返事。
何だかそれが随分と懐かしくて、まゆは安心しきったように笑いをこぼしてしまった。



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