空白の時間


副長室で書類整理をしていると「トシー?」と気の抜けた声が聞こえてきた。この声は我らが大将近藤さんだ。
どうせ返事をしなくても勝手に入ってくんだろ、と踏んでいれば案の定がらっと襖が開いた。

「お、仕事中か?」
「いや、別に大丈夫だ。どうかしたか?」

その手には酒が持たれていて、ふと時計を見ればもう夜の23時だった。寝付けの一杯でもやろうということなのだろう。そう判断した土方は書類をファイルにまとめると「総悟の奴も呼んでやれ」と付け加えた。







「っかー!人の酒は格別美味いですねィ」

上機嫌で近藤の酒をぐびぐび飲みまくる沖田。それに近藤は少ししょぼくれながら「もう少し味わって飲んでくれる?」と残り少なくなった酒瓶を覗き込む。その横ではちびちびと酒を舐めていた山崎が新しい酒に手を出そうとしていた。

「総悟、あんま飲み過ぎんなよ。明日お前朝番だろ?」
「うるせーや。言われねェでもちゃんと仕事しやすよ。俺が何時サボったってーんでィ」
「ほぼ毎日だよ。よく言えたなそのセリフ」

既に頬が真っ赤になっている沖田に土方は絶対仕事サボる、と確信すると自分の空になったグラスに酒を注いだ。

「ってか土方さん。首尾はどうなんでィ?」
「はあ?」
「だからぁーまゆさんとはもう仲直りしたのかよって聞いてんでさァ」
「……………元サヤに収まってたらこんなとこでヤケ酒なんかしてねェだろ」
「そりゃそーだ!ぶわははははははは!!!」

人を指差して笑うな!とその指をへし折ってやりたくなる。

「てか副長、ちゃんとまゆさんに説明されてないんですか?」
「あ゛?何をだよ?」
「ですから、この半年近くの事を」
「…………別に……いう必要もねェだろ」
「はい出たー。自分勝手な思い込みー。そういうのが駄目なんでさァー!」
「はァ?お前に言われる筋合いはねェよ」
「いやいや、総悟の言っている事はまともだぞ?俺もちゃんと説明したほうがいいと思う。そうしたらきっとまゆちゃんも……」
「元サヤに戻るってか?ハッ。ねーな、ねェねェ。むしろ今よりもっと離れてくっつーの」

まゆと連絡を一切取らなかった6ヶ月間。
そこにはきちんとした理由があった。だが、土方はその理由を一切彼女に伝えていない。いや、ちょっとぼかしたニュアンスで「仕事が忙しい」とは伝えた。だが、その一言の中にはいろんな意味が込められていた。
それをきちんと言えという3人に対して、土方は頑なにそれを拒否した。

「何故そんなにも嫌がるんだトシ。何も聞かされず放置される方がもっと嫌だろ?」
「…………事が事だからな。変にあいつに言う必要はねェよ」
「そうかなァー?」

下唇をむいっと突き出して酒を煽る男に、3人は顔を見合わせてため息を零す。彼が言うなと言う事を自分たちが勝手に彼女に伝える事もしづらく、今まで彼らは土方の思う通りにしてきた。
だが、流石にじれったくなったのだろう、沖田が「あ゛ー面倒臭ェ!!」と言ってグラスをダンと机に叩きつけた。

「土方さん、あんたはまゆさんがそんな器の小せェ女だと思ってるんですかィ?6ヶ月も辛抱強くあんたを待ってくれてた女ですぜィ?」
「けど振られたぞ」
「だからきっちり理由話して謝りに行けってんだ!こそこそこそこそ!ストーカーみてーにケツ追い掛け回しやがって!てめーは近藤さんか!?此処はストーカー養成所か!!??」
「え、総悟そんな風に思ってたの!?」
「当たり前だろィ。トップ2人はストーカーて笑えやせん」
「あ、それは俺も思います」
「ザキィィ!?その白けた目やめて!!」

6ヶ月もまゆを放置していた理由。それは仕事が忙しかったのだ。
だが正確にはそれだけではない。何故忙しかったというと、土方十四郎の恋人、まゆの命が狙われていたからだったのだ。



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