気持ちを込めて
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パタンと本を閉じる頃には、すっかり西日が傾き始めていた。世界を赤色に染め上げる夕日は、全国共通で少しさみしい気持ちにさせると思う。
読みながら何本も吸っていた煙草の吸殻が足元に山になっている。せめてその吸殻をゴミ箱に捨てるか、と地面にしゃがみこみ一本一本手のひらへと乗せていると、ふと自分の下を向いた視界の中に一つの影が入ってきた。そしてそこからゆっくりと手が伸びてくると今度は視界に白く細い手が入ってきた。
「お久しぶり、十四郎」
「っ、……お、ぅ」
見慣れたその手に視線を持ち上げれば、それは見知った…そして会いたかった女の顔で。土方は少し驚きつつも安堵した顔を向けた。
「お前……あの男の村にいたんだな」
「うん。少しの予定が大分長いこといちゃった」
「……そうか」
煙草の吸殻を拾う土方の脇にはまゆの本。それをちらりと見つめながら、まゆも吸殻を拾う。
「どうだった?」
「……よかった」
「ちょ、なにその小学生みたいな感想は」
「いや、だって良かったから」
「だからって…他にもっとないの?」
「他には、やっぱ俺はお前の事が好きだ、って思った」
ストレートな言葉に思わずまゆが目を丸くする。
ぴくりと吸殻を拾う手が止まるのを見逃さなかった土方はじっとまゆの顔を見上げると、へにゃりと笑って「好きだ」ともう一度音にした。
「私も」
そう言った瞬間、強い力によって体は抱きしめられ、拾っていた吸殻は宙を舞った。
耳元で絞るように聞こえる「まゆ」と名を呼ぶ声。あぁ、心地よい。
「十四郎、煙草臭い」
「うるせぇ。黙ってろ」
「ふふ」
もう一度ソファーを買おう。
少し奮発していいソファーを買おう。
そこにお互い身を寄せて座り、コーヒーを飲もう。もちろん、コーヒーカップだって買いなおして。
そして抱いてもらおう。あの時のように。
鼻をかすめる吸殻の煙草の匂いに、まゆはそんな事を思いながら彼の口づけを受け入れたのだった。
fin
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