普通の恋愛

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一方、この3ヶ月、まゆは何をしていたかと言うと、今まで住んでいたマンションを引き払い随分な田舎に身を寄せていた。
その田舎と言うのは、以前自分を誘拐し殺そうとした男の妻と娘がいる田舎だった。
歌舞伎町の都会が嘘のように、未だ昔の生活が色濃く残る山の中の小さな村。其処にあの男の妻と娘はいた。

自分が何故この男の家族を尋ねたかと言うと、山崎との事情聴取の時に、あの男が捕まったことを聞いたからだ。そして、殺されるだろう…と言う事も。
その言葉通り、それから暫くして男は処刑された。新聞には男の名前は記載されていなかった。と言うか、たった1行、攘夷浪士1名処刑、と書かれているだけだった。
だから、伝えなければいけないと思ったのだ。待っている家族に、彼は立派だったと。立場は違えど殺さずに助けてもらった恩に報いらねばならない。そんな気持ちから、まゆはその場に来ていた。

だが、一足遅かったようだ。

自分がその家族の場所を探し出し、訪れてみると、既にその家族の姿はなく家は蛻の空だった。
いや、正確には蛻の空ではなく、生活用品は全てそのまま、家族だけがすっぽり消えてしまっていたのだ。
そしてちゃぶ台に広げられた彼の死が書かれた新聞と、男が書いたであろう手紙が一枚。
その光景に、家族がどういう道を選んだか理解してしまったまゆは漠然としてしまった。

そしてまゆはそのままその家族が住んでいたその家に身を寄せたのだ。別に行くあてがないから身を寄せたわけではない。そうではなくて仕事をする為だ。
この事を書かないと駄目だ。
世の中の人間に知ってもらわなきゃ駄目だ。そう思い、まゆは男の家族が住んでいた家に身を置くと、この村の人間に色々話を聞いて回った。
田舎ゆえ、警戒心が強い人たちから話を聞くのは骨が折れた。だが、使命感から投げ出すことは出来ない。それに逃げ出したくもないと思った。

そんな訳で3ヶ月間と言う月日をまゆは江戸から遠く離れたこの田舎町で過ごしていた。






「さて、こんなもんかな」

パチパチとノートパソコンのキーボードを叩き、満足そうに息をつく。PCの画面には沢山の文字が並んでいる。
この3ヶ月間の成果だ。
あとはこれを会社に持っていき部長に見せるだけ。
ほぅ、ともう一度息をつくと、まゆは自分のスマホに目を向けた。時刻は21時。着信が何件か入っているがどうせ会社からだろう。
一応銀時は自分のこの番号を知っているが、彼がこの番号に電話を掛けてくる時は金の催促ぐらい。それなら無視でいい。
もしかしたらこの着信の中に土方からの電話があるかもしれない、とふと思ったが流石にないだろう。またしても銀時から情報を買うなんて馬鹿な真似は流石にしないはず。
なら、やっぱりこの数件の着信は無視でいいや、と判断すると、まゆは年季の入った台所でお茶を沸かし始めた。

今頃、土方十四郎は何をしているだろう。
探すな、とメモを残してきてしまった。
それはただ単に意趣返し、というわけではなく。不貞腐れて、と言うわけでもない。では何故かと言うと自分を信じて欲しかったのだ。
自分は彼におんぶに抱っこな子供じゃない。そこまで守ってもらわなきゃいけないほど非力でもない。力はなくとも、それを補える頭がある。彼の横に立てる力量がある。
その事をわかって欲しくて、信じて欲しくて、距離をとって貰おうと思ったのだ。
彼一人で背負い込むことはない。
仕事で一緒にいるのではない。対等な立場で一緒にいるのだ。一緒にいることを選んだのだ。
ならば、その隣を、手を繋いで歩ませて貰いたい。

だから、存分に自分の主張はしてきたつもりだ。何せあの十四郎に「俺に対して口悪くね?」と言わせたぐらいだ。今までのカワイ子ブリッコしていた自分ではなく、本心さらけ出した自分を存分に見てもらった。
あとは彼が信じるだけ。

いや…

それだけじゃない。そうじゃなくて、それは自分もなのだ。

自分も彼を信じられるか、その判断もしたかった。
なんだかんだで、別れたと思っても彼と会う機会は多かった。自分の生活の中で、別れてから彼がいない生活はほとんどなかった。だがら、本当に一人の時間が…彼が介入しない生活が欲しかったのだ。
そして、その生活の中で自分は彼を求めるのか確認したかった。

「……ふふ、私もなかなかの馬鹿よね」

結果。
自分は彼を求めている。
正直、分かっていた事なのだが、その気持ちを理解したくないとそっぽを向いてしまっていたので納得するのに時間がかかってしまった。

私自身、私の体も、人生も、全てにおいて私は彼を求めている。

「………んじゃ、仕事も終わったし、そろそろ素直になりますかね」

そう言うと、まゆは淹れたての熱々のお茶を一口啜り満足そうに息をついたのだった。



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