普通の恋愛



翌朝、屯所の中は大騒ぎだった。
何故なら、まゆの部屋は蛻の空で、部屋の真ん中には綺麗に畳まれた布団と小さなメモ書きが一つあったからだ。

「ど、どうしましょう副長!今からでも検問を敷いてまゆさんの捜索に!」
「……いや、」
「いやって!まゆさん出てっちゃったんですよ?!わかってるんですか?!」
「っせーな。わーってら」

土方の手の中にはメモ紙が一枚。まゆが書いたものだ。
それには、細く綺麗な字で「探さないでください」と書かれてあった。

「副長!あんたまゆさんと別れたくなくて色々工作してたんじゃないんですか?!いいんですか!?こんな所で諦めて!!」
「だからうるせぇって言ってんだろ山崎。何生意気な口効いてやがんだ。殺すぞ」
「ひっ……け、けどっ、」

山崎を一括すると、土方は煙草の煙を盛大に吐き出しながら彼に背中を向けた。そして彼女が書いたそのメモ紙をひらひらと風に泳がせながら、もう一度しっかりと目を通したのだ。

"探さないでください"

そう書かれた文字の上には、実はもう一文書かれていたのだ。

"少し時間が欲しいから"

しっかりとその文字を目に焼き付け、深呼吸を繰り返す。

「…まゆ」

これはどう言う意味だろう?
自分に良い様に解釈してもいいのだろうか?それとも…。

既に別れたと主張をする彼女と、もう一度恋仲になれるなら。そのチャンスを彼女がくれると言うなら。自分はそれに従うまでだ。
ゆっくりと、静かに瞳を閉じると、土方は「うっし!」と気合を入れるように己の頬をバチンと叩き気合を注入した。

探さない。
それが彼女が自分の腕の中に帰ってくる条件ならば、自分は彼女を探さない。
そう心に決め、土方は本日の仕事に向かったのだった。




それから暫くして、土方の耳に入ってきたのは彼女が住んでいたマンションが空室になり、入居者を募集していると言うものだった。あと、沖田からの情報だが、まゆと同じ職場の望月の話だと仕事は辞めてはいないそうだ。元から会社に通勤しなければいけないと言う職場でもないので最近は殆ど顔を見る事はないらしいが…。それでも彼女はまだそこの出版社で働いている。
ちなみに、真選組特集はどうなったかと言うと、流石まゆというべきか、自分の誘拐事件を上手いことまとめ、特集を組んでいた。実際にライターが誘拐されると言うリアリティありすぎな文章にこれまた雑誌は売れに売れてるらしい。


カーテンも付けられていない6階のまゆが住んでいた部屋の窓。その部屋を見上げながら、土方はマンションが見える場所から煙草を一本吸っていた。
今、彼女がどこにいるか自分は知らない。正直、職権乱用でもすれば居場所はすぐに特定できるだろう。現に総悟なんかは何やら言いたげにこちらの様子を伺っている。もしかしたら既に住所ぐらいは検討ついているのかもしれない。

「ったく、何時まで待てばいいんだよ」

チッと舌打ちをして吸い終わった煙草を携帯灰皿に入れる。
待っていればいい。そうは分かっているが逢いたくて逢いたくて気が狂いそうになる。
そして分かったのだ。あぁ、そうか、自分も彼女にこんな気持ちを味合わせていたのかと。
自分は彼女を6ヶ月放置した。ちなみに今は彼女が消えて3ヶ月だ。自分の時の半分。だと言うのに既に根を上げそうな自分の情けなさに苦笑する。

実は一度だけ、彼女にメールをした事がある。消えて1ヶ月目の事だ。
元気なのかどうなのか、安否だけでも知りたいと思いメールを入れたのだが、その自分の心配メールは送り先不明で戻ってきてしまった。
ぶっちゃけ、今回も万事屋に金でも握らせて教えて貰おうかとも思ったが、ギリギリの理性でそれは我慢した。
5万払った時に比べれば、自分の成長に拍手をしたいぐらいだ。

「…いつまでも此処に居てもしゃーねーか」

ぼーっと眺めていたマンションの6階。ちなみに今は見回り中だ。
これ以上此処で足を止めているわけにもいかず、土方は踵を返すと見回りルートへと体を戻した。




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