昨日の敵は今日の友

風呂から上がり、肩にタオルをかけたままの土方が冷蔵庫からビールを取り出すと、どかりと休日のお父さんの様な感じでソファーに体を埋めた。あ、その光景実家で見たことあるわ、と思ったが言わない。60近いおっさんと行動が一緒といわれたら流石の彼もへこむだろう。

「お、やっぱ良いな。このソファー」
「ん?」
「座り心地最高」
「そりゃ3時間以上吟味したもんね」
「あー…癒されるー」

付き合いだして家に来るようになり購入した新しいソファーは彼のお気に入りらしい。屯所はソファーを置くような作りではないので憧れだったらしいのだ。

「けどこのソファー確かにすわり心地いいけど、座ると立てないっていうか…一日ここから動きたくなくなっちゃうのよね」
「別にいいじゃねぇか。お前ほとんどが家で仕事だろ?」
「そういっても…堕落した生活になるわ」

軽くチーズのおつまみを作って彼の横に腰を下ろせば、もっちこっちに来い。と言わんばかりに腰を引き寄せられてしまった。

「ちょっ、十四郎?」
「いじゃねぇか。これだけ座り心地いいなら体も辛くねぇだろ」
「……は?」
「そう言う目的もあるわけだしよ」

にっと笑った彼の顔が近づいてきたと思ったら、ぢゅっと首に吸い付いてきた。咄嗟の事に身構える事が出来ず「あンっ」と自分でもびっくりするぐらい大きな声が出てしまった。

「お?お前もその気か?」
「ち、違うわよ!びっくりしただけでっ!」
「はいはい。分かった分かった」
「ちょっと!」

鼻にかかった甲高い声に気分を良くした土方の唇が更に首を、頬を、唇を這う。与えられる心地よさに抵抗なんて気持ちは全くなく、そのまま身を任そうとした時だった。「たまんねぇなぁ…」としみじみとした彼の声が耳元を掠ったのだ。

「別に、此処で止めていいんだよ。まじで」
「は?止めるの?」
「いや、止めねぇけど」
「はい?」
「けど、お前が止めろってったら止めれる」
「はぁ」
「すげーだろ?」
「???」

自信満々にぶんす!と鼻息を荒くする土方に意味が分からない。このままの流れで体を繋げなくても平気なんだぜ!の意味が分からない。だからなんだというのだろうか?
思わず怪訝そうに彼の顔を見れば、分かんねぇの?と困った顔をして額を小突かれてしまった。

「お前に惚れすぎて、これだけで十分癒されてるってーの」
「……十四郎」
「普通の野郎なら此処で止まるとか無理だろ。けど俺は止まれる」
「そりゃ私に魅力を感じてないからとかじゃなくて?」
「は?んな訳ねぇだろ。だったらこうはならねぇよ」

そう言ってがしっと手を掴まれ導かれた先にはギンギンに主張をしている土方ジュニア。既にそこそこの硬さを誇っているそれに顔を赤くすると「けど、お前がだめってーなら此処で止まれる」と先ほど小突かれた額にキスをされてしまった。

「体繋げるだけが全てじゃねぇんだな。ホント、ち○こは辛ぇけど、こうしてお前抱きしめてるだけで俺は満たされてるっつーか」

満足気な吐息が耳元で聞こえる。
その気持ちが、その言葉が嬉しくて、まゆは自分の手の中にあるそれをそっと握ると優しく上下に動かしてみた。

「っ、…まゆ、」

聞こえてくる少し荒くなった吐息に悩ましげに名前を呼ぶ声。自分を抱きしめる腕も少し強くなり、シャンプーの香りが鼻腔を充満する。

「十四郎。十四郎の気持ち凄い嬉しい。けど、私は止められないかな」
「上等」

抱きしめていた腕を緩めソファーへと押し倒される体。下から見上げる彼の頬は上気していて、つられて自分の頬も朱へと染まる。

「覚悟しろよ、まゆ」
「うん」

押し倒された手が、そっと自分の手と重なる。その幸せを握りしめながら与えられる快感にまゆの身体は悦んだのだ。





あの時と同じように、いや、あの時より慌ただしい足音が扉の前までやってくる。
チャイムが鳴ったら…と昔の記憶が入り混じったが、生憎ここにはチャイムなんて物はなく、そうこうしているうちにバン!と重厚な扉が蹴破られるように開いた。

「まゆ!!」
「…十四郎」

まゆの無事な姿を確認した瞬間、険しかった彼の表情に安堵の色が見え、そして次の瞬間にはその汗臭い体に抱きしめられていた。

「まゆ!無事でよかったっ、」
「十四郎、」

汗臭く、少し埃っぽい彼の上着に顔を埋めれば、嫌でも鮮明に思い出す過去。
表現できない、この胸の高まりを伝えるべく、まゆは土方に負けじとその大きな体を抱きしめた。

"抱きしめるだけで満たされる"

あの言葉の意味が分かる。自分は今、言いようもないぐらい満たされている。この汗のにおいに、埃臭さに、熱いほどの体温に、彼の腕の強さに…あぁ、此処だ。私の戻る場所は…と思うほど満たされ満足している。

「まゆ、敵は?!」
「ん?何処か行っちゃった」
「はぁ?!何処か行った?!」
「うん。私を殺すのは次会った時でいいって」
「っ、」
「狙われてたのは…ずっと、私だったのね。十四郎」
「………まゆ」

びくりと震える彼の腕。
それに、気にしなくていいよ、という願いを込めてさっきよりも強く強く彼の身体を拘束してやったのだった。



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