予測と憶測


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ぴちゃん、ぴちゃん、と何処からか水が漏れている音がする。あれ?水道の蛇口閉め忘れてたのかな?と思いながら、まゆは重たい瞼を持ち上げた。

「……あ、」
「よう、お目覚めかい?」

目を開けて飛び込んできたのは何処か汚い倉庫の様な場所と、ガラの悪そうな男が数人。その事に先ほどまでの事を思い出した。

そういや…この人たちに変な薬嗅がされて…

野郎の人数は5人。だがあくまで見えている範囲で、だ。きっとこの倉庫らしき建物の見張りとかも含めるともっと人数はいるのだろう。そして目の前の男たちは当たり前の様に帯刀しているし、自分は縄で拘束されている。どうやっても女一人では簡単に逃げられそうな状況じゃない。こりゃ諦めるしかないな…と持ち上げていた上半身をもう一度、地面へと落とした。

「おいおい、やけに素直だな。肝が据わってるってゆーか。流石真選組鬼の副長様の女だけあるってか?がはははは」

品のない笑い方をしてこちらを見てくる男共に、まゆは怪訝そうに眉を寄せると「はあ!?」と不服そうな声を上げた。

「ちょっと、誰が誰の女だってーのよ」
「あん?オメーが土方の…」
「ふっっっざけんな。何馬鹿な事言ってんのよ」
「………え?」

不服そうな、嫌悪感丸出しなまゆの態度に男たちが一瞬ざわめく。

「あのねぇ。十四郎と恋人だったのは数ヶ月も前の話。もうとっくに別れてるんだから」
「は?嘘ついてんじゃねぇぞこのアマ!」
「嘘じゃないわよ!」
「んじゃ何でテメー真選組で寝泊りなんかしてんだよ?!あの副長様と一緒にあんあんしながら寝てんじゃねぇのかよ」
「きっっっも!?ちょ、止めてよね?!」
「え、」

ギャー!っと顔面蒼白になって心底嫌そうな顔をするまゆに男たちの顔色も徐々に変わってきた。

「真選組屯所にいるのは仕事だからよ!私の仕事は雑誌のライターなの!んで今度真選組特集を組むからその取材で寝泊りしてるだけだし!本当はすっごくすっごくすっごくすっごくすっごくすっごく嫌なんだから!!!!!」
「………えー……」

寝ていた体勢を起こし、地団駄を踏むように力説する姿はまるで鬼のようだ。そして最後の地団駄を踏んだ瞬間、ばきっと音がして男たちの足元に何か転がってきた。見れば細いパンプスのヒールの部分で、地団駄を踏みすぎてどうやら折れてしまったらしい。それをそっとつまみ上げると、大柄な男が「分かったから…分かったから落ち着いてくれ嬢ちゃん…」と動物をあやすかのような態度を取ってきた。

「落ち着けだぁ!?あんたたち人の事誘拐しておいて良くそんな事言えるわね?!」
「う、うるせぇ!黙らねぇと殺すぞ?!」
「うるさァァァァァァァい!!!こちとら最近ストーカーされてたり監視されたり監禁されたり強姦されたりで犯罪には慣れてんのよ!!その中に殺害が加わったところで怯みはしないんだからね!?」
「其処に殺害加えちゃうの?!同じレベルで捉えられちゃうの?!」
「いいから聞け!クズどもがァ!!!!」
「殺すぞこのアマァ!!!」

ストレスが爆発する。とは正しくこの事なのだろう。
今まさに殺されかけていると言うのにまゆの怒りは収まらない。どうせ殺されるなら言いたい事言ってやる!という投げやりな精神でもあるが、この怒りを収める術を此処の野郎共はしらない。
いっその事、本当に今すぐ殺してやっても良いがこの女は貴重な人質。そう安安と殺す事は勿体無い。
よって、男たちは抜刀しかけた手を収めると彼女の怒りに耳を貸すことになってしまったのだった。









一方、土方たちはと言うと、まゆの足取りを追って街中の監視カメラを確認し搜索の真っ最中だった。

「山崎、お前は監視カメラの確認をしつつ、何かわかったら直様俺に連絡を入れろ!」
「はい!」
「総悟は各隊に指示出しとけ!」
「へい」
「万事屋!お前は顔が利く。聞き込みでまゆの情報を集めろ」
「へいへい。ってか俺真選組じゃねぇんだけど…」
「もちろん報酬は出す」
「何なりとお申し付けください!」

土方の指示の元、各々行動を始める。土方自身は、と言うとまゆが消えたあの現場から動物的勘を使って彼女の居場所を特定するつもりらしい。要は怪しいところは片っ端から…というやつだ。
一応、目星はつけていて、彼女が消えた場所から5km程の所に廃墟となった倉庫と車の整備工場などが点在している。まずは其処に行ってみるか、と土方はパトカーのアクセルを全開で踏み込んだ。

こうなる事は分かっていたのだ。今回の事じゃなく、いつかこういう事が本当に起こってしまうと。だから、本当は彼女と別れてやる事が彼女にとっても一番良いと分かっている。
だが、理解はしていても気持ちは追いつかないもので…。
現にこうして誘拐されたというのに、今の自分の心の中には彼女と別れてやろうなんて気は微塵もない。けれども、もし自分の所為で既に彼女の命が絶たれていたら…と思うと…。
どうしようもない憤りがアクセルを踏む力を倍増させる。

そうじゃねぇ。今はそんな事考えてねぇでまゆの無事だけ…あいつが生きてる事だけを…っ。

目的の場所まであと数キロ。
土方は咥えていた煙草のフィルターを噛み締めると何度も心の中でまゆと唱えながら猛スピードで車を走らせたのだった。



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