予測と憶測

食事を済ませ、会計を済ませ、駐輪場まで行くと少し車体が低くなったスクーターが其処にはあった。

「…え、何これ?パンクさせられてない?」
「げっ、まじかよ」
「信じらんない。アイスピック刺さってるんだけど?!」

銀時のスクーターのタイヤにはご丁寧に刺さったままのアイスピックが有った。しかも前後のタイヤに、だ。まさか足をヤられるとは思ってなかった銀時は額に手を当てると「修理代がぁ〜」と情けない声を上げた。が、それはほんの一瞬で、直様その顔を直すと「まゆ」と彼女の肩を抱いてその細い体を引き寄せた。

「な、何?!」
「良いか?後ろを振りかえんじゃねぇぞ」
「は?何で?」
「いいから……走れっ!!!!」
「!?」

ドン、と背中を押された瞬間、銀時が腰の木刀を引き抜いたのが視界に見えた。伊達にこいつらとツルンでいる訳ではない。真選組の副長と恋人をやっていた訳ではない。経験で分かる。
まゆは直様状況を理解すると押された背中の勢いのまま全速力で走り出した。すると背後で「ぐえっ!」と蛙の潰れた様な声が聞こえ、直様隣に銀時がやって来た。

「反射神経いいじゃねーか」
「そりゃどーも」
「いいか。このまま突っ走るぞ」
「まじか。食べたばっかなのに…」
「多勢に無勢だからな」
「!」

そう言われ、振り返るなと言われていたというのに思わず振り返って後悔した。
背後から自分たちを追ってくる人数が10人はいるだろうか?銀時一人なら問題ないのかもだが、自分を守りながらだと流石にキツいのかも知れない。と、言うか、そもそも何で自分たちが襲われているのだろう?

"実は今結構凶悪な攘夷浪士と対峙しててね"
"高杉ではないんだが、例え一般人だろうが真選組を潰すためなら殺す事も厭わない…みたいな"
"あぁ、だからなるべく…いや、絶対屯所の外に出る際には俺から離れるんじゃねぇぞ"

ふと、思い出した取材初日に言われた一言。きっとその凶悪な攘夷浪士と言うのが今自分たちを追ってきている輩なのだろう。きっと何処かで自分が真選組と繋がっているのを見られたに違いない。

ぶわっと全身に走る戦慄。あ、駄目だ、これガチで殺されるやつだ。こんな事ならちゃんと言う事を聞いて一人で(銀時はいるが)行動しなければ良かった。と息苦しさも相まって涙がじんわりと出てくる。

「まゆ、大丈夫か?!」
「う゛ぅ、だいじょばない」
「なにそれ?!大丈夫なの?!大丈夫じゃねぇの?!どっち?!」
「大丈夫じゃないィィィィ!こんな事なら十四郎の言う事ちゃんと聞いとけばよかったぁぁぁあ!!!」
「泣くなっ!追いつかれんぞ!」
「だってぇぇ!!十四郎おおおおおおおお!!!」

困った時の合言葉、「ドラ○もォォォォォォォん!!!」の様に十四郎の名を読んだ瞬間、ギャルルル!とスピンを効かせて一台のパトカーがまゆたちの目の前に突っ込んできた。そしてバン、と勢い良く開いた助手席のドアから現れたのは、困った時の合言葉で出てくるドラ○もん。ではなく、タバコを口に咥え不機嫌そうに眉間に皺を拵えた土方十四郎だった。

「まゆ!!」
「十四郎っ!!」
「こ…んんお馬鹿野郎!!何で勝手に屯所から出てっ!!!」
「土方くん後ろ後ろ!今お説教どころじゃねぇから!!追っかけられてっから!!」
「!」

銀時の言葉にまゆを抱きとめようとしていた土方の注意が後方へと向けられる。そして敵である浪士共を確認すると「総悟!」と運転席にいた沖田に声をかけた。

「おやおや、結構な数引き連れてマラソン大会ですかィ?まゆさんに旦那」
「そんなわけあっか!」

つらっと引き抜かれる土方の刀と、沖田の肩担がれるロケットランチャー。そして次の瞬間には爆発音と共にまゆの体は軽く宙を舞った。

「総悟!一匹も捕り逃がすなよ!」
「うるせーや。あんたも一緒に爆破させてやりやすぜ?」
「ふざけんなっ!!仕事をしろ仕事を!!!」

走り出す土方と沖田。それを見届けてまゆはパトカーに寄りかかるように足を止めた。

「大丈夫か?」
「私は大丈夫、それより銀時っ、」
「わーってるって。加勢してくりゃいいんだろ?」
「お願い」

すらっと抜いた木刀。10対2じゃ流石に分が悪い。銀時に土方のサポートをして貰うようにお願いすると、まゆはずりずりとその場に疼くなってしまった。

この街一番の繁華街という訳ではないが、そこそこ人通りもある。そんな中で自分は襲われ命を狙われた。そして今、彼らが自分を守ってくれるべく戦っている。
特殊な場所ではなく、普通の通りで、一般人を余所目に刀での斬り合い。日常の中の非日常が目の前で行われている。
2年前、自分が参加したのは大捕物とかで敵のアジトに踏み込んだり…とかはあった。だが、こうして本当に普通の街中で殺し合いになるなんて初めての経験で、まゆは苦しかった呼吸を整える暇もなく、その非現実の様な光景に目を奪われてしまった。

彼の仕事を理解しているなんて、やっぱり口先だけだった。こんな事…私は何も知らないし、想像もしてなかった。

悲鳴を上げて逃げ惑う一般人。それを庇いながら刀を振るう土方。一方、一般人なんかお構いなしの様にミサイルを撃ち込んでいく沖田。砂煙と炎で視界も空気も悪い。

「ご、めんなさ…い」

怒号と爆音の中、まゆの声がかき消される。
何にごめんなさいか、自分でも良く分かっていなかったが、口が勝手にその言葉を紡いだ。

「ごめんなさい、十四郎…私、」

そう言った瞬間だった。

「なら、俺らにちっくと協力しちゃくれねーかな。お嬢ちゃん」
「!?」

自分の背後から声が聞こえた、と思った瞬間。まゆの視界は暗転していた。










「よし、総悟。全員ふん縛っとけ」
「へいへい」
「あ゛ー疲れたぁー。あ、大串君、協力費は真選組からでいいから」
「あ゛あ゛?!何だよ協力費って?!意味分かんねぇよ!!」
「協力費ってあれだよ。これだけ検挙出来たお礼?あとまゆへの口止め料」
「おまっ……足元見やがって」

ぐるぐると沖田が捕まえた攘夷浪士共に縄をかけ縛り上げる。全員縛り上げたのを見届けると、土方は内ポケットから煙草を取り出して火をつけた。そしてまゆの無事を確認すべく、砂埃で視界の悪い中、パトカーの方を見て息をつまらせた。

「大串君?」
「……おい万事屋……まゆはどうした?」
「は?まゆならパトカーの所に……って、あれ?」

空いたままになっているパトカーの助手席。
そして、その地面には片方だけ転がっている淡いグリーンのヒール。
その光景に土方は咥えていた煙草をぽろっと落とすと「まゆ!?」と走り出した。

「え?まゆさんどうかしたんですかィ?」
「総一朗くん、いねーんだよ!まゆが!」
「え?」
「おいまゆ?!何処だ!?返事しろ!まゆ!!」

片方だけ転がっていたヒールを拾い、辺りを声を荒らげ走り回る土方。だが、彼の声に返ってくる声は一つもなかったのだった。



[ 2/3 ]

[*prev] [next#]
[]
[しおりを挟む]





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -