過去の資料

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さてさて、どうしたものか。

昨日、やっとの思いでこの2年間の資料は読みきった。目ん玉が飛び出るんじゃないかと言うぐらい眼精疲労半端ない。だが、なんとか一晩でやりきったまゆは徹夜で妙なハイテンションのまま朝ごはんを食べに食堂へと来ていた。
だがどうやら朝食を食べるには少々遅かったらしく、食堂には誰もいない。あー…これならゆっくり飯が食える。とまゆはおばちゃんから朝食の乗ったトレーを受け取ると一番端っこの席に腰を下ろした。

本日の朝食はパン。屯所では珍しい洋食のメニューだ。和食なごはんも好きだが屯所のおばちゃんが作るマッシュルームとほうれん草とハムの入ったオムレツは格別で、一番好きなメニューかもしれない。
そのオムレツにフォークを刺しながら、まゆは今日の自分の行動を整理すべくノートPCを開いた。
食事中にPCをいじるなんて行儀悪いとおばちゃんに怒られるかと厨房の方へと目を向けたが、特に何を言ってくるでもないのできっと気にしないと言う事なのだろう。そりゃ真選組の連中と比べれば、ご飯食べながらPCなんて行儀がいい方なのかもしれない。
はぐはぐ、と口いっぱいに美味しいオムレツを突っ込んでキーボードを操作する。そして口の中がなくなったら、また大量にオムレツを詰め込んでキーボードを叩く。それを何度が繰り返してると彼女の手がピタリと止まった。

「大江戸病院…か…警察病院ねぇ」

何故土方が怪我をしたのか、その怪我は自分と距離を置いていた時期なのか、その確証を得るためにファイルを読んだが、そのどれにもその様な記載はなかった。
ならば幾らここの資料を読んでも駄目だ。別の所から情報を収集しないといけない。
だが、この真選組屯所にいる人間は無理だろう。何故かその事を隠そうとしてくる。
よって、まゆが目をつけた場所は病院。
あの傷で病院に行っていないわけがないだろうし、病院ならば真選組の事で口を閉ざすこともないだろう。まして今自分は真選組の記事を書いていると言う特殊な環境にある。取材だと言えばある程度話してくれそうだ。

「そうと決まれば昼頃にでも屯所を出ようかな」

大江戸病院か警察病院かどっちに彼がかかったか分からないため両方回らなければならない。余裕をもって行動したほうがいいだろう。
そう判断すると、まゆは遅めの朝食を急いで胃へと収めたのだった。










「何処へ行かれるんですかまゆさん!」

真選組屯所の門を出ようとすると、血相を変えた隊士たちが駆け寄ってきた。それに門番の連中も慌てた様子で門を締めようとする。なんだなんだ、私は凶悪犯か何かか。そう思いながら冷ややかな目で駆け寄ってきた隊士たちを見ると「一旦職場に戻るの」と説明をした。

「しょ、職場って、え?何でですか?!」
「なんでって途中経過の報告とか他に必要なものもあるし」
「あ、え、っとひ、必要なものはこっちで用意するんで!報告とかも電話じゃダメですか?!」
「いや、つーか何?出ちゃダメなの?」
「あ、いや、えーっと…」

歯切れの悪い感じでまゆを止めてくる隊士。
本当は会社に戻るわけじゃなくて内緒で病院に聞き込みに行きたいので放っておいて貰いたい。だがこのままでは屯所の外にすら出してもらえそうにない。

「あの、せめて護衛を付けてもらえませんか?」
「え゛。嫌なんだけど。何で??」
「あ、その、今、実は結構危ない連中が江戸の町に潜んでるとかで…幾ら取材で俺らと一緒にいるとしても…まゆさんの身が危険ってーか」

しどろもどろに答える隊士は嘘を言っている風ではなく…確かにそんな話言ってたなぁ、とまゆは腕を組み思案した。
護衛をつければ自分が何処に何を聞きに行ったかバレてしまう。それは出来れば控えたい。と、なればやはり護衛はつけたくない。だが…
ちろりと見た隊士の目は真剣で、こりゃ見逃してもらえそうにないな、と判断するとまゆはスマホを取り出した。

「あなた、万事屋の坂田銀時知ってる?」
「え?万事屋の旦那ですか?知ってますけど」
「彼、ものすごく強いの知ってる?」
「えぇ、知ってますけ…ど……まさかっ、」
「彼と一緒に出かけるから!だから護衛なしで屯所を出てもいい?」
「えええええ!!??万事屋の旦那とですか?!あの副長と犬猿の仲のォォォォォ!!?それはそれで俺違う意味で副長に殺されますって!勘弁してくださいよまゆさん!!!」

必死になって止めようとする隊士を無視し、電話をかけ始めるまゆ。もちろん相手は坂田銀時で、取材同行謝礼2万の言葉に物の5分で真選組屯所の前までやって来た。
こういう時の銀時は扱いやすくて本当に助かる。
目の前の顔面蒼白で狼狽える隊士を他所に、まゆはやってきたら銀時からヘルメットを受け取ると「夕飯前には帰るから」とバイクの後ろに跨ろうとした。が、隊士の少しだけ待ってください、という声に足を止める。

「す、少しだけ万事屋さんとお話させていただけませんか!?」
「え?銀時と?」
「えー?何?」
「少しだけでいいんで!!」

そう言うと隊士は銀時のそばまでやってくると、こそこそと耳打ちを始めた。一体何を話しているのだろうと聞き耳を立てようとしたが聞こえず、銀時の表情から言われている内容を予測しようとしたが、あの魚の死んだような目からは何も読み取ることはできなかった。

「あー、はいはい。そういう事ね。了解了解」
「ほ、本当に理解してくれてますか?!」
「わーたって。でーじょーぶでーじょーぶ」

必死の隊士の形相とは別に、いつもと変わりない表情で受け答えをする銀時。
実は何を言われたかと言うと、まゆを殺さんとする攘夷派が町に潜伏しているという事を言われたのだ。なので不審な輩がいたら注意して欲しい、と。一応真選組の連中ならばこの坂田銀時が強いと言う事は知っている。この隊士もそれは理解していて、自分がついていくよりも彼に任せた方が確実に安全だと言う事はわかっているのだ。

「もう話はいいの?」
「おーけーおーけ。ほれ、乗れ」
「はーい」
「いいですか?!絶対夕飯前には…ってか副長にバレる前に帰ってきてくださいよ?!」
「はいはい。大丈夫大丈夫」

パチンとヘルメットのフックを止めると、バイクにまたがり銀時の広い背中にしがみついた。
そして、バイクがブオンと低い音を唸り出すと猛スピードで江戸の町を走り出したのだった。

「んで?どこ行くんだよ」
「大江戸病院と警察病院」
「は?病院?誰か入院でもしたのか?」
「違うって。取材だってさっき電話で話したでしょ?」
「取材?」
「そうそう、ってか銀時」
「あ?」
「あなた、十四郎が前にひどい怪我したの知ってた?」
「………え、えー?な、なんの事かなー?」
「………」

まゆの質問にしどろもどろになって答える銀時。しがみついている背中からバコンバコンとけたたましく心臓が鳴っているのが伝わる。

あぁ、そうか。銀時も知ってたんだ。なのに…私には秘密にしてたんだ…。

心の中にあった不信感がむくむくと大きくなる。だが、大きくなったのは不信感だけではなかった。
他の者はこうして知っていると言うのに、自分にはひた隠しにしようとしている。それはどういう意味なのだろう?
少し見えてきた空白の6ヶ月間。
けれども、自分はこれを知ってもいいのだろうか?そういう不安が胸を這い回る。
そもそも、自分はこの空白の6ヶ月間を知ってどうしようというのだろう?何の為に、自分は知ろうとしているのだろう?知って、このあとの未来が変わるのだろうか?

「…どうした?まゆ」
「……ううん。何でもない」
「ふーん……んじゃ大江戸病院から行くぞ」
「うん」

ブオンと低音を鳴らしながら、加速するバイクにまゆは銀時の背中をキツく抱きしめると「知ってから考えよう」と一旦思考を停止させたのだった。



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