真選組屯所


井草の微かな匂いと若干の男臭さ?獣臭さ?のある局長室で、まゆは酒に手をつけながら夕飯のおかずを口へと運ぶ。その手元にはノートPC。食事中で行儀が悪いかもしれないが食事をしながら打ち合わせをしようと言って来たのは近藤なので見逃して欲しい。

初めて真選組を取材した時の懐かしい話で盛り上がりながらも、今回の打ち合わせも忘れない。とは言っても、今ここで打ち合わせをしているメンバーは近藤と土方、沖田の3名なのでどうにも話が脱線してしまう。けれども然程気にする事なく、まゆは日本酒を喉へと流し込むとPCのキーボードを叩いた。

「じゃぁ、一応期間は一ヶ月で。その間に大捕物がなかった場合は期間を少し延長しますね」
「おう!それで構わねぇ!」
「もちろん逆も然りで一ヶ月以内に大捕物があった場合はそれで取材を終了とさせていただきます」
「ならのんびりとやりますかィ」
「いやいや沖田くん。私も暇じゃないんだから早く帰らせてくれないかな?」
「んじゃ条件を出しやしょう」
「条件?」
「土方さんと元サヤに戻ったら開放しやす」
「却下で」
「えー!?」
「"えー"じゃないし。つーか開放って何よ。私は仕事しに来てんの。仕事が終われば開放してもらいますからね!!ワザと大捕物しないとか禁止!!」
「ちぇー。つれねーお人だ」
「はいはい。馬鹿な事言ってないで呑んで呑んで」

ぶすーっと口を尖らせる沖田のお猪口に酒をついでやり、今のやり取りを黙って聞いていた土方へと少し目線をやれば、彼も同じように口を尖らせて酒を舐めていた。お前ら精神年齢子供かよ、と心の中で悪態をつくと、煮っ転がしへ箸をつけた。

「それにしても、トシの件は置いといて…またこうしてまゆちゃんと一緒に生活が出来るとはな!」
「本当……もう二度とないと思ってましたよ」
「あ、それとまゆちゃん」
「はい?」
「実は今結構凶悪な攘夷浪士と対峙しててね」
「……凶悪な攘夷浪士?高杉とかですか?」
「高杉ではないんだが、例え一般人だろうが真選組を潰すためなら殺す事も厭わない…みたいな」
「……え゛、マジ?」
「まじまじ大マジ!な、トシ!」
「あぁ、だからなるべく…いや、絶対屯所の外に出る際には俺から離れるんじゃねぇぞ」
「……うわぁ…バットタイミングで取材入っちゃったなー」

真選組の大変さや敵の凶悪さは2年前の取材で了承済みだ。なので遠慮することなく顔を青ざめさせるまゆに土方はお猪口を机の上に置くと「大丈夫だ」とはっきりとした口調で述べた。

「お前は、俺らがきっちり守る。傷一つ負わせるつもりはねぇ」
「いや、此処は"俺が守る"って言い切れよ。ヘタレ土方」
「総悟お前黙ってろ」

ぷぷーっと頬を膨らませて笑う沖田の頬は赤く染まり、少し酒が回りだしたのだろう。そう思いながらも、まゆは小さくトクンと鳴った心臓にそっと手を当てると「お願いします」とはにかんだ様に笑った。
そういや、二年前にも同じようなセリフをもらった。
真選組一同が命にかけてもあんたを守ってやるから安心して仕事しろ、と。
あの時はこんな危険な仕事は初めてで、その言葉に縋るしかなかった。けれども、あの時とはもう違う。その言葉は絶対なのだと信頼出来る。きっとこの仕事を終える時も、自分は五体満足でこの真選組屯所から出て行くのだろう。

「いやー、この二年で無駄に情がついちゃったなー」
「え?」
「ふふ、二年前より全然不安じゃないって事。みんなの事、信頼してるのでしっかり守ってくださいね」
「おう!任された!」

ゴリラのように厚い胸板をドンと叩く局長の姿の逞しいこと。これでストーカーじゃなければね…と思いながら、夜は更けていった。











「まゆ、起きてっか?」
「ん?」

打ち合わせも終わり、先に風呂を頂き、部屋で熱を冷ましていると隣の部屋から声が掛かった。遠慮気味なその声は土方で、まゆは濡れた髪をゴシゴシと乱雑に乾かすと短く返事をした。

「お前がさっき言ってた隊の編成表」
「あ、欲しい欲しい」

襖一枚の隔たりしかないなんて!と昼間散々騒いでいたというのに、今まゆが土方の部屋に入るために開けたのは、その襖一枚の隔たりの襖。
まさかそこを開けて入ってくるとは思っていなかった土方はあんぐりと口を開けるとまゆの格好を凝視した。

「……お前、なんつー格好で…」
「え?何が?男所帯に来るんだから当たり前じゃない」
「……そうだが…」

風呂上りで濡れた髪に少し崩れた着流し……なんて物を期待していたのに、彼女が着込んでいたのはダサいジャージ。小豆色の全然スタイリッシュじゃないジャージだ。
ちょっと湯上り=お色気。なる物を期待していた土方は残念そうな顔を向けるとずかずかと入ってきた彼女に編成表を手渡した。

「おら、これだろ?もしデータでも必要ならメールで送るが」
「あ、そうだなー。一応貰っておこうかな」
「ん」

そう言って自前のPCをカタカタと操作すると土方は「送信完了したぞ」と言ってきた。それと同時に音が鳴るスマホ。それにまゆは怪訝そうにその着信を見た。

「………何で?」
「何が?」
「…何で十四郎、私のメルアド知ってるの?」
「は?何でってそりゃ……あ、」
「…………」

すっかり忘れていた。
すっかり忘れていたが、土方はまゆのメルアド及び電話番号を知らない体になっているのだ。それは以前坂田銀時から5万で買ったから。彼女から番号とメアドは教えてもらっていない。だと言うのに、今自分は彼女の新しいスマホにメールを送信してしまったのだ。

「ガチストーカーかよ。キッモ」
「ち、違っ!!!……わねーかもしれない」
「おい認めんなコノヤロウ」

まゆからの目線が痛い。ものっそい冷たい目線をもらっている。一瞬にして凍ってしまいそうだ。

「……で?誰から聞いたの?」
「あ、いや、その、」
「まさか警察って立場利用して…」
「違う違う!!断じてそれは違う!!」
「どうだが。なんだかんだで家も知ってたわよね?それで今度はメアド、どうせ番号だって知ってるんでしょ?」
「…う゛」
「まじかよ。十四郎最低。本当最低」
「い、いや!確かに調べはしたが警察の権力は使ってねえ!番号もメアドも万事屋に5万で売ってもらってっ!!!……あ、」
「………はぁ!?」

あぁ、駄目だ。喋れば喋るほど墓穴を掘っていく…と土方は自分の頭を抱え込んだ。
恥ずかしいやら情けないやらみっともないやら、色んな感情が頭の中を駆け巡り、穴があったらガチで入りたい。

耳まで真っ赤にし頭を抱え込む男に、まゆは呆れた溜息しか出てこない。本当にこの男は何をやっているんだ。5万も払ったって馬鹿じゃないか?いや、馬鹿なのか。

う゛ーう゛ーと低く呻きながら顔を上げない彼にまゆの手がそっと伸びる。そしてそのバサバサな髪の毛に指を通した。

「馬鹿十四郎」

その声はやけに優しく、土方は思わずばっと顔を上げた。

「そんな物に5万も使うなんて、馬鹿すぎ」

ぽんぽん、と頭を撫でてくるまゆの顔に怒りはなく、むしろ目尻が下がっているように見受けられた。

「だ…ってよ……お前、いきなり、いなくなりし、」
「うん」
「連絡も、とれ、ねぇし」
「うん」
「お前を、つなぎ止める為に、なら、5万ぐらい、どーってこと、ねぇ」
「十四郎」

耳も首も顔を全部真っ赤にしてとぎれとぎれに気持ちを伝えてくる彼の何処に鬼の副長の要素があるのだろう?今にも泣きそうな顔で必死に言い訳をしてくる彼の頭を撫でながら、まゆはうんうん、と相槌を打った。



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