真選組特集

「トシ、悪いなまゆちゃんとデート中に」
「いやいや近藤さん、デートじゃなくてストーカー中って奴ですぜィ。あんたと同じでさァ」
「っせぇ総悟!いいから資料よこせ!」

屯所に戻ると既に局長室に近藤と沖田がいた。そこに土方と山崎も合流し渡された資料へと目を通す。

「今日捕まえた攘夷浪士が言うには、彼の派閥の松河一派がまゆさんを何らかの形で殺そうと企てていたみたいです。ですが一応、今日大方松河一派は取り締まれたので残すは下っ端の残党のみ。そこまで心配はないかとは思いますが、まゆさんは一般人ですし何かあった場合の対応は出来ませんから真選組隊士を2名監視でつけてきました」

ざっと流れを説明した山崎に3人が頷く。
すると、ずっと資料から目を離さなかった土方が、机の上にそれを置くと静かに「すまねぇな」とかすれる声を上げた。一体何に対しての謝罪だ?と皆の目線が彼へと向けば、垂れ下がった前髪で表情の伺えない彼の姿があった。

「トシ?」
「まゆが狙われてんのは俺の所為だって分かってんだ。その所為であいつは命を狙われ、俺は職権乱用で真選組総出であいつを守ろうとしちまう」
「いや、別にトシの所為って訳じゃ…」
「いや、俺の所為だろ。けど……すまねぇが、どうしても俺はっ、」

彼女を諦めたくない、きっとそう続くだろう言葉に近藤たちは困った様に苦笑すると「それは悪い事じゃねぇだろ」と口にした。

「確かに、これが本当に全く知らねぇ一般人だったら此処までするか?と聞かれりゃしねぇな。マニュアル通りの行動をするだろう。だが、彼女はトシの大切な人だ。そうなりゃ俺らだって守ってやりてぇ。だからトシが職権乱用してんじゃねえ、俺らが職権乱用してんだ」
「……近藤さん」
「そうですよ副長。俺だってまゆさん助けたいですもん」
「…山崎」
「そして土方コノヤローに恩を売ってやりてぇ」
「おいこら総悟」
「がはははは!とどのつまり、俺ら全員彼女を助けてぇんだ。トシ」

だからそんな顔すんな、と豪快に笑う近藤に土方はもう一度深々と頭を下げると「よろしく頼む」と腹から声を出した。

「兎に角、残党をなるべくすぐあぶり出してぇな。それに彼女の警護ももう少し人数を増やしたほうがいいか?」

そう言って隊士リストを確認する近藤に、土方が思い出したかのように顔を上げた。

「そういや、まゆの会社での真選組特集の話、きちんと上がってたみてーだぞ」
「お、本当か?こりゃ松平のとっつぁんに頼んどいて正解だったな!」

ここで一つ種明かし。
まゆが危惧していた真選組特集の第二弾に土方が絡んでいるのでは?と思った件。それは黒もいいところの真っ黒だった。
先ほどの土方は彼女の前で素晴らしいまでの猫を被っていただけ。
実は、真選組特集第二弾は近藤の発案で出会った当初を思い出せば、また気持ちが通じ合うのでは?と言う安直なものだった。だが、そこからの行動はゴリラは早かった。直様警察庁長官の松平に連絡を取り、そっちの圧力でもう一度特集を組んで欲しいと出版社に掛け合えないか頼んでみたのだ。「トシが惚れた女を落とすため」などと言えば、あのお祭り騒ぎが好きな男が飛びつかないわけがない。実際にしっかり出版社の方で話が上がってる。
正直、土方にしてみればプライドが…とも思ったが、もうそんな事言っている余裕はなかった。一刻も早く彼女とよりを戻したい、それしかなかったのだ。でなければストーカー紛いの行動なんかしていない。

そしてこの提案が今回は大吉と出そうだ。

「んじゃさ、まゆちゃん前回みたいに真選組屯所に暫く住んでもらおう?そしたら俺らの目の届くところで守りやすいしさ!浪士たちも手を出しにくいだろ!」
「それはいいですねィ。万が一危ない目にあっても"彼女自身が狙われてる"じゃなくて"真選組にいたから危ない目にあった"って感じでまゆさんの命が狙われてるってこともカモフラージュ出来そうでさぁ」
「確かに!たまにはまともな意見も出せるんですね、局長!」
「がはははは!ザキ、泣くぞ?それ以上勲の心抉ったら泣くぞ?」

じゃぁもっと長官殿に圧力をかけてもらって直様第二弾の取材を行うように手配しましょう!と盛り上がる3人に、真選組の頭脳の土方はぽかんとその場を見届けてしまった。
こういう戦術ではないずる賢さは自分よりも彼らのほうが向いているのかもしれない、そう思いながら。











「あーりーえーなーいィィィィィィ!!!!!!」

翌日、上司から出社するように言われ会社に向かったまゆを待っていたのは、「真選組特集第二弾、直様開始ね」と言う言葉だった。
渡された簡易的な資料に経費。何時もより多めの経費を渡されたところを見ると上司も申し訳なく思っているのだろう。ってか部長めっちゃ窶れてるんだけど。

「まゆさん。ご愁傷様です」
「…望月、仕事変わんない?」
「いや、俺ライターじゃないですから。あくまで一般事務っすから」
「そこをなんとか」
「真選組っていままゆさんに猛プッシュしてる土方さんがいるんすよね?」
「………」
「ファイト☆」
「死ね」

今日の夜には真選組と合流してくれと言われたまゆは資料を握り締めると目の前の男を殴りそうかと思った。
だが、今はその時間も惜しい。直様準備をして取り掛からねばいけない。

「望月、追加資料来たら私のメールに送ってね」
「わーってますって。きっちりフォロー入れるんでご安心を。ってか今回は何日泊まり込みなんすか?」
「まぁ前回同様、何かの大捕物が有るまでは密着で取材しなきゃだろうけど…」
「さっさとそれがあればいいっすね」
「本当ね」

デクスのPCやらテープレコーダーやらを鞄へと詰め込む。

そしてこのあまりにも早い対応に昨日の土方とのやり取りを思い出した。彼は白だと思った。何も知らない風だった。だが、もしや知っていたのか?それとも、そういう話があるなら早くしろと圧力を掛けてきたのか?
どちらにしろ、迷惑でしかないこの状況に胸躍るなんてものはなかった。

「…なんだって別れてからの方がこうして会う事が多いのよ…」

別れようと、距離を置こうと引越しをし電話番号も変えた自分はなんだったのか、と思い知らされる。
もう二度と関わらないようにしたと言うのに…。
そう思いながら、まゆは大方仕事道具を鞄へと詰め込むと長期の泊まり込みの準備をすべく家へと戻ったのだった。




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