真選組特集

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「奥の部屋空いてるか?」

店に入って店員にそう切り出した土方のおかげで通されたのは奥の個室。個室といってもかしこまた雰囲気ではないので居心地も良い。お付き合いをしていた時は良くここを利用していた。

「んじゃとりあえず…烏龍で。お前は?」
「私も同じでいい」
「んじゃそれ二つ」

部屋に入るなり先に飲み物を注文すると、机の端にあったメニューを手繰り寄せた。

「さーて、何にすっかな」
「えーっと、久々で悩むなぁ。海老とイクラのパスタにしようかなー…けどピザも捨てがたい」
「……お前、最近ここ来てねぇの?」
「ん?んー…来てないね」
「そっか」
「で?十四郎は決めた?」
「んー…俺もパスタにすっからピザ半分こにすっか?食えんだろ?」
「やた。んじゃエビとイクラのパスタね。ピザは…」
「生ハムとアスパラのピザ?」
「!…良く分かったわね」
「だってお前これ好きじゃねぇか」

飲み物を持ってきた店員に注文をし乾いた喉を烏龍茶で潤す。
またこの店に二人で来る事が出来るとは、とまゆはストローで茶を飲みながら上目遣いで目の前の土方をみやった。

「………なんか十四郎、今日機嫌いい?」
「え?」
「いや、なんとなく」

そう言うと少し照れたように肘を付いてその大きな手で顔を半分隠す様にしてきた。何だその仕草は、可愛……くない。全然全く可愛くない。

「そりゃそうだろ」
「何で?」
「散々今まで会う度嫌な顔されてたんだからよ」
「っ、」
「けど今日はこうして一緒に飯食ってくれてる訳で…って、あ゛あー、察しろよ!」
「…すんません」

恥ずかしそうに耳まで真っ赤にすると、誤魔化すように茶をごくごく飲み始めた。そうか、意外にも純粋じゃないか。
そんな純粋な彼には悪いが、別に彼とお茶をしたくて一緒に来たわけではない。そうではなくて探りに来たのだ。
今更になってまた特集を組めと言われた真選組の記事。その一件に彼が関与していないかどうか。
だと言うのに、こんな純粋な場面を見せられると何だか聞づらい。けれどもここは心を鬼にして…と、まゆはストローから口を離すと「あのね」と本題を切り出した。

「うちの会社で企画した2年前の真選組特集、覚えてる?」
「あ?そりゃ…お前と出会うきっかけになったわけだし、覚えてっけど?」
「そ、そう…んで、また第二弾をやろうかって話が出てきたんだけど」
「え?」

はい白。こいつ白だ。
今初めて聞きました、みたいな顔するし。しかもめっちゃ嬉しそうに顔輝いちゃったし。ハイ決定、こいつ絡んでなかったー。

目の前で目をルンルンにして詳細を教えろ!と話に食いついてきた土方。うわ、ちょっと面倒くさいこと教えてしまったかも知れない、と逆に後悔すると「あくまで企画で上がってるだけで決定ではない」と付け加えた。

「けど、そうか!そんな話があがってんのか」
「……そうです」
「だとしたらやっぱ今回も泊まり込みか?どうする?前と同じ部屋使うか?それとも俺の部屋でも構わねぇが」
「いや、私が構うわ。ってか待って、本当にまだやるかわかんないし!」
「わーってるわーてる。お、丁度来たぞ」
「あー……本当に分かってるかなぁ…」

タイミングよく出てきた料理たち。
久々のお店の味は全くもって変わっておらず、何度も舌を唸らせた。途中、土方が自分のマヨネーズの付いていない部分のパスタをフォークにくるくる巻きつけ「ほら」と差し出してきて思わずそれを食べそうになってしまった。ほら、じゃねーよ、危うくアーンするところだったじゃねぇか。ふざけんなこのマヨネーズ野郎。
流石にそれはないわ、と丁重にお断りをし、自分のパスタに食らいつく。ピザも仲良く半分こし、あっという間に出された全ての料理を腹の中に収めた。

お腹も膨れ、店を出ると時刻は20時だった。なんだかんだでゆっくりと話をしながら食事をしてしまった。
ってか、時間が経つのも忘れてくだらない話を話し込んでしまった。その事実が何だか付き合いだした当初の様で気持ちが落ち着かない。

「あ、私帰るね」

そう言って歩き出すと「途中まで送る」と隣に並んできた。本来ならば断るところだが「見回りこっちなんだよ」と言われ断る理由がなくなってしまう。
それにしても、良くもこの人は自分の隣で平然としてられるものだ。
別れたのにまだ好きだと言い寄ってきて、強姦紛いの働きをして、山崎まで使って行動を監視して、ストーカーの様に自分の前に現れる。
ってかバレてるんですからねー?山崎くん仕向けて監視してたことー。
そう言う気持ちを込めて隣を歩く男を睨みつけてやれば、ん?と言うように小首を傾げてきて、その拍子に咥えタバコの灰が落ちた。

「……馬鹿だね、十四郎」
「あ?なんだ?」
「ううん、何でも」

いや、馬鹿は私もか…とそっと心臓を抑える。手のひらに感じる、トクントクンと弾む心臓の音。これは嬉しくて心臓が高鳴っている時の音だ。それを感じながら、まゆは困った様に眉間に皺を寄せるとため息を一つ吐いた。

暫く歩き、あと少しで彼女の家、という時だった。土方の携帯がなった。どうやら真選組からだったのだろう、着信の画面を確認すると申し訳なさそうに、悪いと一声かけて電話へと出た。
電話を出ている間も互いの足は進め、もうマンションが見えてきた。すると、土方は話を終えたのか携帯を切ると「まゆ」と声をかけてきた。

「………近くで物騒な事件が起きたみてーだ。しっかり戸締りして寝ろよ」
「あ、うん。わかった」
「それか…心配だったら俺が泊まっても良」
「結構です」

全てを言い終わる前にびしっと拒否をすれば、不服そうな顔が返って来た。ってかあたり前だろう。何さも当然の様に泊まろうとしてんだこのバカは。

「んじゃ、もうマンション着いたから。送ってくれてありがとう」
「いや、見回りこっちだしよ」
「うん、それでも」

きっと見回りなんて嘘なのだろう。けれどもその嘘に自分は乗ってやった。そしてこうして家まで送ってもらった。その事にまゆは礼をするとひらひらと片手を振ってマンションへと入っていった。
その姿が見えなくなり、6階の彼女の部屋に明かりがつくまで、土方は黙ってマンションの前にいた。
そして部屋に明かりが灯った瞬間、携帯電話を取り出すとリダイヤルボタンを押し「いま家に入った」と電話口の相手に告げたのだ。

それから数分、サイレンを鳴らさず真選組のパトカーがまゆのマンションの前にいた土方の所までやって来ると数名の隊士が「交代します」と言って車から降りてきたのだ。それに今度は土方が車の助手席に乗り込む。
運転席には山崎の姿があり、彼を確認すると土方は「確かな情報なんだろうな」と空気を切るような低い声を上げた。

「はい、今日捕まえた攘夷浪士が吐きました。まゆさんを亡き者にしようと言う企てがあるそうです」
「………っち、またかよ。切っても切っても生えてくるトカゲの尻尾か」
「まぁ、言い方は悪いかもですが副長が副長である限り、この問題は尽きないでしょうね」
「山崎の癖に嫌味たぁー偉くなたもんじゃねぇか。えぇ?」
「ひっ!お、俺は一般論を言ったまでで!!」
「うるせぇ!!早く車かっとばせ!!作戦会議すんぞ!!」
「は、はいっ!!!」

来た時よりも早くその場を後にするパトカー。
マンションの外でそんな話がされているとは知らず、まゆはと言うと、一日の疲れを取るためにゆっくりと風呂に入っていたとか…。




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