空白の時間


いらっしゃいませーと言う店員の声を聞きながら、まゆは自分自身に盗聴器が仕掛けられているのではないか?と言う発想に陥った。
何故か?
それは目の前でアホ面でラーメンを啜っている土方十四郎がいたからだ。

「お客様何名様ですかー?」
「2人でーす」
「望月、店変えよう」
「え?何で?俺すっげーラーメンって気分だったのに」
「いや、けど…」
「ラーメンラーメン!俺ラーメン食いたいっす!」
「…………分かったから静かにして…」

ラーメン店に入るとカウンターの席に土方が居て一人でラーメンを啜っていた。否、マヨネーズまみれの何かを啜っていた。もちろん、彼もまゆに気がついたようで目を丸くしてこちらを見てきている。
こちらへどうぞー!と案内された席はカウンター席で、しかも最悪な事に土方の隣の席だった。せめて彼の真横は望月に座ってもらおう、と思ったのだがまゆの行動より先に後輩が動いてしまった。

「あれ?土方さんですよね?お久しぶりでーす!いやー奇遇ですねェ!」
「お、おお!お前らも飯か」
「はい。今日もまゆさんの奢りで!今日は沖田さん一緒じゃないんっすね」

そう言って土方の隣の席を一個空けて座る望月。その事に盛大に困った顔をしてみたが、彼の目線はメニュー表に行ってしまいこちらの変化に気づいてくれない。こっちを見ろこっちを。
えー、マジで十四郎の隣座らなきゃなの?!と1つ空いた席を凝視すれば「早く座れよ」と何故か土方に催促された。いや、お前に催促される覚えはない。ってか気安く話しかけてくんじゃねェ…と思いつつ、何も知らない望月がいる手前そんな暴言を吐ける訳もなく、まゆはぐっと眉間に皺を寄せるとその空いていた席に腰を下ろした。

「久しぶりだな」
「…………そうですね」
「元気してたか?」
「ご覧の通り」

"逃げられると思うなよ"発言から数日。
そんな発言をしてきたのだから翌日にでもまた家までお仕掛けてくるかと思いきや、彼は来なかった。
というか、その発言の日から今日まで一回も会う事はなかった。

何なんだ、と肩透かしを食らったような気分だった。
逃げられると思うなよ、なんて大胆な発言をしておきながら、またしても放置の彼にまゆの思考は嫌でも土方に占領されていた。
今日だって望月にため息が五月蝿いとまで言われたのだ。これも全て土方の所為。その事にまゆは快い対応など出来ず、むすっとした顔で土方に言葉を返していた。

「なぁ、今日の夜暇か?」
「………はぁ?」
「だから夜は暇かって聞いてんだよ」
「ひ、暇じゃないしこれから仕事が…」
「え?まゆさんこれから直帰ですよね?特に取材が入ってるとかもないっすよね?」
「も、望月っ!!」
「ふーん。そうか」
「!!」

いきなりの夜のお誘いに断りを入れようとしたのだが、横から余計な情報をぶっ込んできた後輩にまゆの目が釣り上がる。だが空気を読めない望月は「え?」と目を丸くするだけだ。
此処は下手に嘘をつくのは避けたほうがいい。そう判断すると、まゆは思いっきり溜めながら「………暇ですよ」と返した。

「けど!暇ですけど十四郎の為に時間を作るとかできませんから」
「何でだよ」
「理由がない」
「こっちにはある」
「けどこっちにはない」
「お前にあるかないかなんて聞いてねェよ。俺が時間を割いて欲しいって言ってんだ」
「だから!お前にくれてやる時間はねェって言ってんだよ!」

思わず出てしまった強めの口調。
するとタイミングよく目の前にラーメンお待ち!とどんぶりが出てきた。本当タイミング悪い。
まゆの暴言に驚いたのかぱちくりと瞬きをする土方を横目にまゆは割り箸を豪快に割ると、女とは思えないほど盛大にラーメンを啜り出した。おかげでビチャビチャとスープが激しく飛び散る。
隣の後輩は「うわ、先輩のガチ切れ久々にみた」と呑気な声を上げ同じくラーメンを啜る。

「………兎に角、夜空けとけよ」
「はあ!?」

まゆのガチ切れに若干怯えた様子の土方が千円札をカウンターに置くと席を立った。そしてまゆの反論を聞くよりも先に店から出て行ってしまったのだ。ちょっと待て!言い逃げかよ?!空けないからね!?必死に心の中で反論するが、相手がいなくては意味がない。
そんな様子を眺めていた望月が「まゆさん」とラーメンを啜りながら声をかけてきた。

「あれ絶対来ますよ」
「……だよねェ…」
「しかも時間割いてくれるまで帰らないタイプと見た」
「うんうん、だよねェ」
「彼氏さんなんすか?」
「いや違う」
「んじゃアタックされてる系?」
「そんな感じ。けど断ってるんだけど」
「へー。なんかストーカーでにもなりそうなタイプっすね。気をつけてくださいね」
「……………」

既にストーカー気味だよ!!と叫びたい唇を噛み締めると、まゆは今日の夜は家にいない方がいいかな…と残りのラーメンを啜るのだった。



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