空白の時間

土方十四郎という男は曲がりなりにも真選組の副長。そして攘夷浪士を情け無用で斬り捨てる鬼の副長なのだ。恨みの1つ2つ…いや、100ぐらいは買っていたって可笑しくはない。
今回、まゆの命を狙っていた輩も、言わずもがな攘夷浪士で土方の恋人を殺して彼にダメージを与えようとしていたとか…。

そんな輩を野放しに出来ず、土方は私情が挟みすぎているにも関わらず、他の攘夷派は後回しにしてその一派の壊滅に躍起になったのだ。

彼女の命が狙われている理由は自分の恋人だからだ。ならば極力会わないようにしてまゆが恋人というネタがガセだと思わせようとした。
それが一年前。
けれども事態は予想外にも深刻だった。
まゆの命を狙う攘夷は1つだけではなかったのだ。叩けば叩くほど出てくる情報。江戸の町に潜む攘夷一派の殆どが何かしらの形でまゆを手に入れようとしていた。
殺そうとする者、誘拐しようとする者、強姦して売ろうとする者…あげればキリがない。

そして思い知ったのだ。
自分には普通の恋は出来ないのだ、と。
自分の恋人だという事実だけで命を狙われる。そんな理不尽な事はない。
正直、この事実を彼女にも伝えるべきではないか?という考えも持った。
けれども俺はそれをしなかった。

怖かったのだ。

その事実を突きつければ恐怖した彼女の口から「別れる」という言葉が出てしまうかも知れない。それが酷く怖かったのだ。

普通の恋をさせてやりたい。
命の危険に怯えながらではなく、普通の女として、普通の一般人として、ただ単に、俺を好きなまゆでいて欲しかった。好きでいて欲しかった。傍にいて欲しかった。

だから俺は"極力会わない"ではなく、"会わない"という選択肢をとった。
全てが片付くまで…攘夷浪士の目から彼女が消えるまで…俺は彼女に会わないと決めたのだ。
それが6ヶ月前。
山崎に女装させ囮調査をしたり、まゆにこっそり警護をつけ怪しい奴は片っ端から引っ捕えた。

そして暫くした頃だった。
俺はミスを犯してしまったのだ。

まゆを狙う攘夷組織の排除もほぼほぼ終わり最後の一派を壊滅させている最中、俺は油断してしまった。
もう少しで彼女に会えると言う気が緩みが、手酷くやられてしまう結果をもたらせた。

最後の一派の壊滅は出来たが、気が付けば俺は1ヶ月もベッドの上で意識がなかったらしい。流石に長期の寝たきり生活のお陰で筋肉は衰え普段の生活に戻るまで3ヶ月間もかかってしまった。
そしてリハビリも終え、普段の生活に戻り、やっと彼女に逢えると意気揚々と連絡を取ろうとして………。







「…う!…ちょう!副長!」
「…………んあ?山崎?」

どうやら自分はいつの間にか眠ってしまっていたようだ。寝ぼけ眼で辺りを見回せば、自分と同じように畳の上に転がっている沖田と近藤の姿、そして目の前の山崎は手に毛布を持っている。

「起きられますか?それともこのまま寝ますか?」
「…あ゛ー……このまま寝るわ」
「はい、じゃあこれ毛布です。風邪ひかないでくださいね。あ、あと明日の朝、沖田隊長起こしてください」
「それは無理」
「いやまじでお願いしますよ。絶対サボりますよあのドS」

顔を真っ赤にしてガーガーといびきをかいている。確かにこりゃ明日絶対起きねェな、と理解をすると土方は携帯を手繰り寄せ7時にアラームをかけておいた。

「では失礼しますね」

そう言って局長室を出ていこうとする山崎に土方が「なぁ」と声をかけた。

「………俺の選択は間違ってたのか?」

いつも自信満々な鬼の副長な癖して、その声はやけに自信なさげで、若干震えているようで、山崎はこの人にもこんな部分があったんだ、と少し目を丸くすると「…そうですねェ…」と足を止めた。

「副長が今の現状に満足していないのであれば、間違っていたのかもしれませんね」
「………満足してねェ…」
「じゃぁ間違いだったんじゃないんですか?正直、お二人の事なので俺が正解や不正解を出すものではないとは思いますが…辛い思いをしているのであれば、それは不正解だったんじゃないかなと思います」
「………俺だけが辛くて、まゆは幸せだったら?」
「うーん…その場合も不正解なんじゃないか?正解ならばどちらかが、ではなくどちらも幸せなんじゃないでしょうか?例え別れたとしても、互いが納得して幸せな別れ方ってあると思うんですよね」
「…………」
「それに、もしかしたらまだ正解や不正解の様な結果を出すのは早いかもしれませんよ?」

じゃ、おやすみなさい。と部屋を出て行く山崎。俺は今までやつの事を童貞だと馬鹿にしていた。すまねェ山崎。今ちょっと見直した。伊達に俺より年は取ってねェな。

酒の所為でぐるぐる回る頭。
けれども、なんだか胸は少しばかりスッキリしており、土方は山崎に渡された毛布を手繰り寄せると頭まですっぽりとそれをかぶったのだった。

















「………はぁ」
「…………」
「………はぁ」
「…………」
「………はぁ」
「……あのー、いい加減にしてくれません?」
「…え?」
「一体何百回溜息ついたら気が済むんですか」
「え…そんなにしてた?」
「今日出社一時間で68回はしてました」
「………数えてたんかい」

久しぶりの出社。相変わらず会社に社員がいない職場で、フロアには望月しかない。
だからかは分からないが気が緩んでしまい溜息のオンパレードだったらしい。何故そんなにも溜息が出るのかと言うと、言わずもがな土方の所為だ。

「ごめん。これ校閲に回してくれる?」
「へいへい。あ、そう言えば部長から次の企画どうするかって連絡来てたんですけど」
「あー…そう言えば来てたね」
「なんか前回のキャバクラ特集が好評だったらしく第二弾行きたいみたいな事言ってましたよ」

カタカタとPCを弄りキャバクラ特集の回の売上表を画面に映すと望月は「ほら」とそれをまゆに見るように催促してきた。確かに前回と前々回に比べたら売上は上々だ。今のご時世そんなにキャバクラがフューチャーされるとは思わず意外そうにそのデーターを覗き込む。

「ま、男心擽る遊び場ですからね。あ、けど先輩の文章も良かったんだと思いますよ」
「取ってつけたようなお褒めの言葉、光栄です」
「いやいや、マジで。まーじーでーですって」
「………そんなに褒める魂胆は?」
「一緒にランチ行きません?」
「私の奢りで?」
「yes!先輩の奢りで!」

この後輩はちゃっかりしすぎである。年下の甘えモードをしっかりと使いこなし愛くるしい笑みで悪気なく言ってくる。こう言う可愛い奴には弱いんだよな…と思いながらまゆは鞄に荷物を全て詰め込むと「ご飯のあと直帰するから」と調子の良い後輩の額を小突いた。



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