バレる

「だからね、私…十四郎が好き。正直まだ全然好き。だけど……」

「寄りは戻さねぇ」

「そういう事」

きっと彼女の今のカレンダーは何もマークが付いていないのだろう。まっさらな何も書かれていないカレンダーを想像しながら銀時はゆっくりと目を閉じると「いんじゃね?」と言葉を返した。

正直もっと簡単な話だと思っていた。だが、彼女の顔を見る限り、事はそんな簡単なことじゃねぇんだな、と理解した。
だからこそ、あの土方も焦っているんだろう。でなければ自分に5万も払って携帯の番号なんかも聞いてこないはずだ。

大串君、こりゃ元サヤに戻んのは大変だぞ…

まゆが何も言ってこないと言う事はまだ渡した彼女の番号は活用されていないのだろう。だが、きっと時間の問題だ。

再びしーんと静まり返った万事屋の居間。その静けさに耐えられなくなったのか『じゃぁ、』と言ってまゆが立ち上がった。

「銀時、話聞いてくれてありがと。少しすっきりした」

「へいへい。お安いご用ですよ。んじゃ相談料5000円で」

「黙れカス」

「うわ、辛辣。話を聞いてやった友達に敬意はないのかよ」

「だからありがとって言ってるじゃない」

「言葉よりも金がいいなー」

「あんた何時か友達なくすわよ」

ふふふっと笑ってまゆが玄関へと向かう。
その背中に、銀時は少しうーん、と悩むと「なあ」と声をかけた。

「お前、大串くんが何で6ヶ月も連絡寄越さなかったのか知ってんの?」

「え?だからそれは忙しかったって…」

「何で忙しかったの?」

「?…それは………知らないけど仕事でしょ?」

「お前らさ、もう一回ちゃんと話し合えば?お前らに足りなかったのはさ、お互いの気持ちとかそんなんより時間だろ?」

「…」

「一度ちゃんと話し合って、それからでも俺はいいと思うけど?」

「…」

じゃーね、とやる気のなさそうな手が自分を見送るために揺れる。その揺れる手を眺めながらまゆは銀時の言葉に釈然としない顔をしながら、万事屋の戸をくぐった。

銀時の言ってた意味ってなんだろ?

万事屋からの帰り道。言われたセリフを思い返しながら歩いた。
忙しかった理由?そんなの明白じゃない。仕事でしょ?真選組の仕事で忙しかったんでしょ?んで真選組の仕事って言えば攘夷浪士の撲滅活動じゃない?攘夷浪士をやっつける為に忙しかったんじゃないの?
あれは普通の警察とは違う。攘夷浪士専用の組織なのだ。それは自分があそこを取材して理解している。仕事内容だって大方取材をしたおかげで理解はしているのだ。だからあの土方も自分の仕事を理解してくれてると言っていた。

「……意味わかんない」

そもそもいかなる理由があろうと、自分を6ヶ月以上放置した事には変わりない。普通のカップルなら自然消滅でOKな内容だろう。確かに彼の仕事は特殊だけれども、自分たちはごく普通の人間なのだ。一皮剥けばただの男と女。天人でもなければ大金持ちの令嬢とか跡取りとかでもない。ただの普通の男と女。

そのただの人間が普通の恋愛を望んで何が悪い。

「………次好きになる人は、もっと…もっと本当に普通の人を好きになろう」

そんな事をつぶやきながら、まゆは自分の家へと歩いた。

万事屋から徒歩15分程、あと一つ曲がり角を右に曲がって200m程歩けば自分のマンションだというところまできた。あぁ、コンビニでも寄って帰れば良かったなーと歩きなれた曲がり角を曲がった瞬間、まゆは『ん?』と目を細めた。
自分のマンションの前に誰かいる。
そしてその人物は明らかに不審者な装いで、エントランスロビーを覗き込んだりマンションの上の階を見上げたりしている。しかもあろう事か帯刀していたのだ。

うおおおお、不審者だ。やだ何これ、入りづらいじゃん!!!

挙動不審でキョロキョロしている人物に足がすくむ。あの人物の横を通りオートロックを解除してエントランスに入った瞬間、一緒についてきてしまったらどうしよう!?と最悪な想像が頭を占める。
此処は警察に通報したほうがいいのでは!?と思っていると、その不審者がどことなく自分の知っている人間に似ている事に気がついた。

黒髪のバサバサストレート。黒い着流しに刀。そしてあの身長に体格。

まさか、と思いつつその人物に近づいていく。すると向こうもこちらに気がついたのだろう、ばっとこちらに振り返ったのだ。

『……………』

「……………」

『……………』

「……………」

『……………』

「……………えっと、」

『ストーカー』

「っ?!ち、違っ!!」

前言撤回。
こいつ、まだ私の事好きだわ。

言わずもがな、マンションの前でウロウロしていたのは元恋人の土方十四郎で…。
まゆは今までに見たことも無いような蔑むような目線で土方を睨みつけたのだった。



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