バレる

神楽がいなくなった万事屋の居間は一瞬だけしーんと静まり返ったが、まゆの何とも長い溜息で話が再会した。

「んで?自意識過剰?それが何?いけないことなの?」

「いや、いけない事って言うか…自分バカみたいだったなーって…一人相撲してたっていうか、もう本当に十四郎に合わす顔がないっていうか…」

「別にいんじゃね?お前が自意識過剰になってたことを土方の野郎は知らねぇんだから」

「うっ…まぁ、そうなんだけど…」

「ってかさ…」

「?」

ソファーの背もたれにだらしなく体重をかけていた銀時がぐいっと前のめりになる。そして膝に肘をつき、口の前で手を握り締めるような真剣な体制を取ると、いつもより少し低音の声を出してきた。

「お前、まだ大串くんの事好きなの?」

「っ!?」

銀時の質問にびくっと大きく揺れる薄い肩。もちろんその分かりやすすぎる反応に気づかないわけもなく、銀時はふーん、と心の中で納得をすると脂の乗った舌を更に動かした。

「なるほどねー。まだ好きなんだー?俺はてっきり放置された時間が長くて嫌いになったものだと…」

「あ、いや、べ、別にっ!す、好きじゃっ!!」

「ってかまだ好きなら別れる必要なかったんじゃね?もう1回やり直せば?」

「…っ、」

好きじゃないと言っておきながら顔を真っ赤にして明らかに動揺を見せるまゆは分かりやすすぎる。こんな反応を見せるなら自分が言える言葉は一つ。やり直せばいい。それしか言えない。だが銀時の言葉にまゆは先ほどまでの赤い顔を一旦引っ込めると今度は情けないほどの困った顔を晒してきた。そして「それは無理かな…?」ともどかしそうに自分の前髪をくしゃりと握りつぶしたのだ。

「…何で?」

「だって…十四郎だってもう私の事好きじゃないだろうし」

「いや、それはねぇだろ」

「だって見回りの管轄を元に戻したんだよ?それって私を意識してないってことじゃない」

「いや…それは…まぁ……」

歯切れの悪い返答をする銀時にまゆは「それにね」と言うと目線を少し落とした。

「十四郎と一緒にいると、私…自分の事嫌いになっちゃうんだ」

「…へ?」

へらへらっと笑ってはいるが、その笑顔が痛々しい。何故そこで自分を嫌いになるのだろう?
不思議に思いながら銀時はつい先日の事を思い出していた。

実はつい先日、大金が手に入った。金額にして5万。この金の出処は土方十四郎だった。
詳しく話せば、土方が何でも屋の万事屋銀ちゃんに仕事を頼みにきたのだ。そしてその仕事内容と言うのは「まゆの携帯の番号、そしてアドレスを教えてくれ」というものだった。
おいおい、流石にそれはストーカーだろ?!ストーカーゴリラと同類になんのお前?!と散々やつをなじったが、それでも珍しくあのマヨネーズ馬鹿は引かなかった。最終的に5万を目の前に突き出されてあっさりと携帯の番号を教えてしまったのだが…
そこまでするあの馬鹿がもうまゆに興味がない?意識していない?それは大きな間違いだろう。むしろ悪化してるだろう。
それに自分に聞いてきたのは携帯番号とアドレスだ。住所などは聞いてこなかった。と言う事は既にそっち系は調べがついているとみた。
見回りの管轄も元に戻したというが、傍から聞いていれば興味がなくなって戻したというよりは偶然を装って会いたいから故意にそうしている風にしか思えない。

大串くんも苦労してんなぁー

頭の端っこでそんな事を思いながら銀時は深刻そうな顔をする目の前の女をみた。

「十四郎といたら、私どんどんどんどん性格悪くなる」

「…………ブフっ!!」

「ちょっ!笑い事じゃない!!」

「ぶふっ…ぶくくっ、す、すまねぇ。え?ってか何で?あの性格悪い土方くんに触発されてって事?」

「違うわよ。そうじゃなくて……あ゛ー!!!もう何て言えばいいかなぁー!!??」

あ゛ー!!と長い髪をかき混ぜながら悶える姿はちょっと可愛い。その様子をニヤニヤしながら見ていると「カレンダー」と言ってきた。

「カレンダー?」

「私、カレンダーに○と△と×をつけてたの」

「ふん?」

「十四郎に会えた日は○で電話かメールなら△、会えなかったら×」

「………意外に乙女チックなんですねまゆさん」

「うっさい。黙って聞け」

「…はい」

「けど…私も自分にびっくりだよ。そんな事するような人間じゃなかったのに…」

自分が自分じゃないみたいで…そういうまゆに銀時はなんとなく彼女の言いたいことを理解すると机の上にあったいちご牛乳を手にとった。

「何で会ってくれないんだろう、何で電話くれないんだろう、何でメールもしてくれないんだろう…って。別にいいの。おやすみとかおはようとかの一言で。それだけで私は満足だったし満たされたと思うんだ」

「…うん」

「だってそれなら1分も時間を取らないでしょ?時間がない忙しいって言ってもさ………けど、十四郎はそういう事をしてくれなかった…」

「…うん」

「ってなると…どーにもね………悔しいっていうか、寂しいって言うか、情けないっていうか…」

「…うん」

「結局、好きなのは私だけで…十四郎にとって私って1分の時間を割くのも惜しい存在なのかなって…」

「うん」

「どんどん自分が惨めになってさ…情けなくなって……自分の存在価値までなくなっちゃったみたいに感じて…」

「うん」

「自分の事、嫌いになっちゃう」

へへへっと笑い目尻にはうっすらと涙が溜まっていた。
彼女の言い分は最もで、銀時も「うん」意外に返せない。正直、自分はそこまで誰かと恋愛をした経験がないので深くは感情移入は出来ないが、この話を聞いて誰が善で誰が悪かと聞かれれば十中八九、土方だろう。その事に銀時は5万の出処に多少なり罪悪感を感じてしまった。



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