職権乱用


牛丼屋からの帰り道。たまたま土方たちの見回りの方向もまゆの会社方面だったらしく4人で歩く羽目になった。
何故だか沖田と望月が意気投合して話し合っているため自然と自分の横には土方が並び歩幅を進める。

「……なんかさ」

「ん?」

「なんか…最近よく十四郎と会うよね?」

「そっ、そうか?!」

「うん。前にキャバクラで会って以来…こうして道でばったり会ったりとか、今日だって牛丼屋で会うし」

「そ、そーか?」

「そうよ。今まで…十四郎と付き合ってる時はこうして偶然に会うこともなかったのに」

「そ、そーかなー?」

若干冷や汗まみれになっている土方。だがまゆは真剣に考えているため土方のその些細な変化に気がつかない。

実は土方十四郎という男は偶然を装っているだけだった。

あのキャバクラでの帰り道。実はこっそりと帰り道を尾行していた。そして彼女の今の住まいもしっかり把握済み。彼は真選組副長、要は警察官なのだ。相手の住まいさえ分かってしまえばある程度の行動範囲や行動時間は推測が出来る。
だからここ最近まゆと会うのは偶然ではなく計算されたものだった。
見回りの地域を彼女の会社近辺にしたり、彼女の休みの日や夜中は彼女の家近辺。今日の牛丼は本当に偶然だったが彼女の会社の近くの牛丼屋を選んだのはこういう事を期待して、だ。

そんな訳で全く偶然とは言い難いここ最近の接触。だがそんな事は言えない土方は冷や汗を流しながらまゆの話を聞き流すしかなかった。

だが…

「けど……前は…そりゃ会わなかっただろうな」

「え?」

「前は…意図してお前の会社の近くの見回りは俺の管轄から外してたからな」

「…え?なにそれヒドっ。わざと会わないようにしてたって事?」

「まぁな」

平然とそんな酷い事を言ってくる土方にまゆの目が丸くなる。だがそんな彼女に向けられた眼差しは温かいものだった。

「だって仕事になんねぇじゃねーか」

「…へ?」

「もし仕事途中にお前に会ったりでもしてみろ。その後仕事どころじゃねーだろ」

「……えーっと?よく意味が…」

「だから、我慢が効かなくなっちまいそうで会いたくなかったんだよ。俺が!」

「っ、」

少し照れくさそうに、ぷいっと顔を逸らしてそう言い切った土方の耳は真っ赤で。
まゆも同じように頬を赤く染めると、これでもかと丸く見開いた目で土方を見た。

何だか付き合っていた頃に戻ったみたいだ、と思った。お互いの空気と言うか流れる時間と言うか、そういった物が、今この瞬間むかしの付き合っている頃に戻ったような気がした。

あぁ、そうだった。私…十四郎のこういうところが堪らなく好きだったんだ。ぶっきらぼうで乱暴で、けど耳まで真っ赤にしちゃうこう言う所…。

思わず彼の頬に伸びそうになった手を慌てて引っ込めると、まゆは気づかれないように深呼吸を一つした。

「んじゃ、ここ最近十四郎によく会うのは通常管轄に戻ったって事なのね」

「っ、そ、そうだ」

「そっか」

実際には通常管轄に戻ったわけではなくて、どちらかと言うとストーカー的行動になってしまったのだが、そこは伏せておく。
これじゃ近藤さんと同じだな、と自分の行動を苦笑すれば目の前に彼女の働く会社が見えてきた。

「じゃ、またね十四郎、沖田くん」

「へいへい、今度は奢ってくだせーや」

ひらひらと手を振る沖田とポケットに手を突っ込んだまま少し口角を上げ微笑む土方。彼らにまゆも手を振ると雑居ビルの中に入っていった。

「さーて土方さん」

「………なんだよ」

「本当は今日の見回りこっち方面じゃねーですよねぇ?」

「うぐっ…べ、別にいいじゃねーか!お前だってあの望月って野郎と意気投合して話し合って…」

「俺ぁ空気読めるいい子ですからねィ。あんたが話しやすいようにあの野郎の相手してただけでさぁ」

「す、すいません」

「本当に悪いって思ってんなら昼飯奢りで」

「…………チ、」

本当はこのあとの見回り地域はまゆの会社とま逆の方向。なのに文句を言わずついてきた沖田には感謝しないといけない。
まぁ、昼飯ぐらいなら…と土方今来た道を足早に戻るのだった。



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