▼飛鳥で意味怖
意味がわかると怖い話。
短いのでこのページには二つのお話をいれました。
次のページには解説があります。
今日は太子が邪魔したせいで、夜中の朝廷で一人残業。あのオッサンめ。
とりあえず仕事は終えた。
戸締まりも確認したし、あとは帰るだけだったのだが、何を思ったのか僕は朝廷内を散歩しようと思った。
夜中の朝廷は、いつもとは表情が違う。真っ暗な廊下は僕を「こちらへこちらへ」と誘っているよう。
童心か、好奇心か。体の中の何かが疼く。僕は本能の赴くまま足を動かした。
といっても、幽霊や魑魅魍魎の類なんてそう簡単に会えるわけではない。
心のどこかで落胆する自分に苦笑した。
結構な距離を歩いたせいもあるだろうが、寒さもまだ残るせいか、厠に行きたくなってきた。
歩いていては間に合わない。
全速力で走りつつ、記憶の中の地図を広げた。
あった、厠。
しかし安心するにはまだ早い。
扉を乱暴にあけ、走っているそのままの勢いで飛び込んだ。
窓が開いているせいで、外気が直に自分にあたり、そのまま廊下に流れていく。
こんな時間にどうせ大の男の小便を見る物好きなぞいまい。
寒さと反射でブルッと体が震えた。家に帰ったらこたつにでも入ろう。
用をたし終わり手を洗った。水が手に痛い。
湿った手で扉を開け、明日は寝不足だろうなあ、なんてことを考えていた。
おわり
また太子が家に来た。
嫌がったって、断ったってどうせ無駄だとわかっている。
家にずけずけと上がり込んでこたつに直行。
「もうぅ〜」と言いつつそれが太子の当たり前のように感じた自分の『慣れ』が恐ろしい。
「妹子、今日はこの聖徳太子からお土産があるんだぞ」
ふーん、そうですか。
そう冷たく返すが、珍しく太子は意にも介さないようだ。
「ジャーン!」という人工効果音と共に太子の手から出てきたのは、カラフルな文字がプリントされた、小さな二つの袋。ずっと握っていたのだろう、袋はクシャクシャだ。
「あわ、だま…?ああ、飴玉ですか」
「そう!竹中さんからもらったんだ。妹子にも一個あげる」
「ありがとうございます」
太子が「お土産」と言うと思わず身構えてしまったが、まともなお土産くらいは持って来れるんだな。
どうやら太子は夕飯まで食べていくつもりのようだ。
「妹子は草と石しかくれなかったのに、私は飴玉をあげたんだぞ!夕飯くらい食べさせろ、コラァ〜っ」だそうだ。
絡んでくる太子を適当にあしらいながら、鍋やらまな板やらを準備していく。と、ふと口の中で転がしている飴玉が気になった。
料理をしながら口にものを含むことに違和感を感じ、小皿になめかけの飴を出し、こたつの机の上に置いた。
しばらくたって、完成した二人分のカレーを太子のところまで持っていく。
口がもごもごと動いている。さては、まさか。
「僕、さっき『もうすぐできます』って言ったじゃないですか。どうして飴舐めてんですか?」
「お腹が空いて…。」
そう俯くオッサン。
しかし理由は小学生のようだ。
僕はハァとため息をつき、ピンクの玉が乗った小皿を差し出した。
「ここに出してください。カレーと一緒じゃ気持ち悪いでしょう」
コロン、という音をたてて、ぬらぬらと光る緑色の玉が小皿に飛び込んだ。絶対ピンクとくっつくなよ。絶対だから。
そうして、よくいえば賑やか、悪くいえば騒がしい晩餐が始まった。
いつものように太子はふざけたことを言って口は忙しいようだが、手は動いていなかった。
「体調でも悪いんですか?」
そう聞くと、太子は「いや」と首を振った。
「さっきの飴玉とカレーの味が混ざって気持ち悪い」
「だから言ったでしょう…はい、お茶」
今のお茶には指は入っていない。
もちろん、唸って苦しんでいる太子より早くに食べ終わった。
そしてあわだまを満喫する。ああ、このシュワシュワと弾ける感じがたまらない。
思わず「おいしい」と呟くと、「妹子だけずるい」と太子が小皿を手にとった。
あと少しだけ残っているカレーがなんだか悲しそうだ。
「あともう一口ほどじゃないですか。飴玉は後で……どうしたんですか?」
小皿を持ったまま、太子は固まっている。
「……妹子、それ、メロンの味しない?」
おわり
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