まあ、服のセンスは人それぞれだ。
それよりも和也にお礼を言えずにいた事を気にしていたため良かった。
「兵藤くんって頭いいんだねー」
「まあ、アンタよりはな」
「自信満々!
じゃあ、そんな兵藤くんを称えてコレあげる」
名前は5個目のシュークリームを取り出し、和也に手渡した。
「…コレは?」
「ケーキ屋で買ったシュークリームだよ。お礼がしたかったからちょうど良かった!」
「…」
(本当は食べようと思ってたけど…)
和也にならあげてもいいと思った。
和也は無言で袋を見つめる。かと思うといきなり笑いだした。
「兵藤くん…?」
「カカカッやっぱりオレの思ったとおりだなアンタ!気に入ったぜ…!
このオレに貧相な菓子を渡す度胸!並のもんじゃねぇ…!」
(ひ、貧相な菓子…)
言葉とは裏腹に和也はシュークリームを大事そうに仕舞っている。
「これはありがたく頂いておく。恩をなんであれちゃんと返す人間は嫌いじゃないぜ」
「そっか…よく分からないけど喜んでもらえて良かったよ。美味しいらしいから今日食べてね」
おう!と言うと和也は何か思い出したように気まずい顔になる。
「あのさー…アンタと楽しく話してるトコ悪いんだけど、オレこれからちょっと用があるんだよね」
「あ、そうなんだ。ごめんね引き止めて」
和也と話しているうちにだいぶ時間が経っていたようだ。
「じゃあね兵藤くん、今日はお礼言えて良かったよ」
「おぉ、アンタも気をつけて帰れよ」
和也を乗せた車はあっという間に消えていった。
(よし、帰ろうかな)
夕飯の後名前は家族とシュークリームを食べた。カスタードと生クリームが入っているそれは甘くてとても美味しかった。
(兵藤くんも今頃食べてるかなあ…)
この同じ気持ちを味わっていたらいいなと名前は思った。
…
(甘…)
和也は名前から貰ったシュークリームを食べていた。
(…疲れた)
名前と別れたあとの事を思い出し、憂鬱になる。親父の付き添いでパーティーへと赴いたがもちろん楽しいことなどひとつも無く、いつも通り自分にヘラヘラしてくる人間にイラついただけだった。
甘いものは特に好きでは無かったはずだが、今日はやけに美味しく感じた。
今日食べた料理は高級なものばかりだったが、このシュークリームの方が美味しく感じたのはなぜだろうか。
イライラしていたから脳が甘いものを欲していただけだ。
和也は自分にそう言い聞かせるが、それだけではないことを頭の良い彼はなんとなく察し、久しぶりに感じる感情に戸惑っていた。
(いやいや…友情なんかくだらねえ。オレが誰よりも一番分かってるだろ)
そう思いつつも満更ではなく思っている。
(明日サボろうと思ってたけど…行くか、学校)
別に名字に会いたいとかでは断じて無い。
ただなんとなく行く気になっただけだし、名字をからかうのは楽しいし。
自分にいろいろ言い訳をしながら和也は指についたクリームを舐めとった。