「誰もが愛する福沢諭吉!どうだ!コレならさすがのアンタも好きだろ!」
「わたしも福沢諭吉は大好きだよ」
「ならば!」
「けど、もらえないよ」
「なぜ…っ!?」
名前は水筒に入ったお茶を飲みながら、札束を和也へと返す。
「だって、兵藤くんからお小遣い貰う理由、ないから」
「…」
和也はたびたびこういったことを仕掛けてくる。
1回断ったらすごすごしまうため、本当にあげたい訳ではないのだろう。
…じゃあなぜそんなの持ってくるのか。
(兵藤くんには謎が多いなあ…)
「はー…なんだよ…なんなら受け取るんだよ…」
「そんな事言われても…普通そんなの受け取れないよ。高いやつとか、お金とか」
「オレの周りのヤツは喜んで受け取るぜ?」
「わたしはその人たちみたいに慣れてないから無理だよ」
ほとんどの人間はそうだろうと名前は思う。
相変わらずお金持ちの発想は分からない。
そういえば、今日やらなければならないことがあったような…
「あ…ああっ!」
「ど、どうしたいきなり大声出して
やっぱり金欲しいのか?」
「忘れてた…今日の数学の宿題やってない…」
「宿題…?あー、5時間目のやつか?
アレ宿題っていうか自主課題みたいなもんじゃん。
別に良いだろ、やんなくても」
真面目かよと和也は呆れているが名前はそれどころでは無い。
「あ、当てられるかもしれないでしょ!
日付が出席番号の人がいつも当てられてるし、その人前の席だし」
「そこまで言うなら昨日やってくればよかったんじゃね?忘れてたのか?」
「昨日は…夜遅くまでちょっとゲームしちゃってたから…」
「ほー、アンタもそんなの興味あるんだな、意外に…!何のゲームしてたんだ?」
「ぼ、ボン〇ーマン」
「…世代を感じるというか、アレだな。女子高生っぽくないよなアンタ。
それにあんま夜遅くまでやるタイプのやつじゃねえだろ…」
「そういうことでわたしは宿題に取り組みます!!」
「そ、じゃあオレはサボるわ」
「ええっ休むの?」
和也が授業に出ないのはいつもの事だった。
彼は手をヒラヒラとさせながら教室を出ていく。
(が、頑張ろう…)