とんでもない人に絡まれちゃったなあ…と名前はぼんやり思っていた。
クラスメイトの兵藤和也、名前はよく知らなかったが彼は大手金融企業の御曹司らしい。
そんなお金持ちならばさぞかし甘やかされて育ってきたことだろう。
あんな振る舞いなのも頷ける。
「何一人で頷いたりしてんの、名字?」
「なんでもないよー今日もお母さんのご飯、美味しいなあって」
相変わらず草っぽいな、と言いながら兵藤くんはコーヒーを飲んでいる。
草ってなんだろう。褒められているわけではなさそうである。
…なぜか、和也の吸殻ポイ捨てを注意した日から絡まれることが多くなり、今では昼食もたまに一緒にとるようになっていた。
最初に誘われた時、名前の友達はそれはもう警戒レベルMAXだった。
まず友人に、「あんた何やらかしたの!!」と言われたのは納得出来ないが、彼女は名前のことを本気で心配していたのだろう、と思う。
コレやるから名字貸してくんね?とお金で友達を釣ろうとして失敗した時、和也が舌打ちをしたのは忘れられない。
相手が兵藤和也だと分が悪いと思ったのか、結局彼女は引き下がっていったが、昼食後質問攻めにあった。
それも2回目…3回目…と回数を重ねてどうやらなにも無いと分かった今は無くなったが、名前にも和也が自分と仲良くしたがる理由は分からなかった。
話し相手なら、兵藤くんの周りにたくさんの友達がいるし。
そんな調子で名前に声を掛けまくるものだからクラスメイトの名前への印象は
「クラスメイトの大人しい女の子」
から
「兵藤和也に絡まれている、関わったらヤバそうなやつ」
へと変わってしまった。
目立つ方へ変わったのだから昇格と言えなくもないが、クラスメイトからは壁を感じ、ちょっと悲しい。
なぜ自分なのかは分からないが、和也は最初に思っていたよりもずっと話しやすい性格だと分かった。
(兵藤くんは自分のことはほとんど答えないくせに、わたしには質問ばっかりしてくるよねー…まぁいいけど…)
「名字、ほらコレやるよ」
「ん?」
和也が何か箱状のものを名前に差し出す。
開けると、綺麗なネックレスが入っていた。
「綺麗だねー」
「そうだろそうだろ、やっぱり欲しいよな?」
「…うーん、綺麗だけど、いらないかな」
断られると思っていなかった和也は思わず音を立てて椅子から立ち上がった。
「は!?なんで!?」
「だって高そうだし…それに、こういうのはわたしじゃなくて…あー、前いた彼女さんとかにあげる方がいいと思うよ」
「それじゃ意味ねーだろ…あの女たちがこぞってこんな貴金属類に飛びつくのは想像出来る…容易に…でもそんな分かりきったことしても何にもならない!」
「?」
「じゃ、じゃあやっぱりアレか?こっちがいいのか?」
和也は札束を取り出し、名前の机に置いた。