「えーっと。よかったら、わたしのちょっと食べる?」
「え?」
「今日実は自分で作ったんだ。だから…まあ、兵藤くんの口には合わないかもしれないけど…」
少しでも食べておいた方が良いだろう、と名前は和也の口元まで唐揚げを運ぶ。
「ど、どうかな?」
和也が普段食べている高級な食事に比べれば、天と地の差かもしれない。
しかし、和也は確かにこの弁当には名前の気持ちが込められていることを感じた。
(愛情を入れる…ってヤツか…?)
…と自分で気持ち悪いことを考えていると気付き、急いで頭の中から打ち消す。
「…普通」
結局口に出たのは可愛くない言葉だった。
普段、おべっかが言えない性格であるなどといっていることもあり、名前は信じてしまうかもしれない。
ひねくれ過ぎている自分の心に嫌気がさした。
普通かー、と名前は言う。
ショックを受けている様子はない。
「いつか、兵藤くんに褒めてもらえるように頑張るよ」
「…ま、せいぜい頑張れば。オレの口に合うものなんてアンタには無理だろうけどな!」
大人げないことを言いつつ、和也は密かに、前向きな名前に対して眩しさを感じていた。
(…あー、なんだよコイツ。脳天気な顔してニコニコしやがって)
名前も同じように唐揚げを頬張る。
お腹がすいていたのでとても美味しい。
「…同じ箸使うんだな」
「なんて?」
「いーや!なんでも!」
和也はそれから名前が食べるのを見守りつつ、他愛ない話をして昼食は終わった。