拍手log | ナノ


▽ 万里ss


「トリックオアトリート!」
「わり、なんも持ってない。」
「えー!今日ハロウィンだよ!?」
「ないもんはないっつの。普段甘いもんそんな食わねぇし。」

夜のハロウィンパーティにお呼ばれしてその前に遊びに来て万里の部屋に突撃すればお菓子ゲットならず。ちょっと気づいてはいたけれどわが彼氏ながらなかなかに夢がない。今日は常に準備しとくものでしょなんてぶーぶー文句を言う私を見て万里は子どもかとなだめるように頭をぐしゃぐしゃにした。

「可愛い格好してたらなんとかしたかもしれないのにな?」
「それは夜ね!」
「じゃあお菓子も夜まで我慢しろよ。」
「万里冷めてる〜。イタズラするよ?」
「やれるもんならやってみろ。」

ほらと手を広げてなにしてくるのかなーと万里は意地悪く笑った。こういうときはかなりの確率でやり返されるってことを私は知っている。だから胸に軽くグーパンだけにしておいた。

「あれ、イタズラは?」
「本番は夜だもん〜覚えとけっ」
「ぶ、雑魚キャラかよ。」

カラカラ笑う万里になぜか負けた気になって、いい匂いのしてきたキッチンでお菓子を分けてもらおうと部屋を出たのだった。

**

「いづみさん私万里呼んできますね!」
「うんよろしくね。」

準備が整ってみんな揃い始めたリビング。飾り付け担当は万里も入っているらしいんだけど一向に来る気配のないものだから私は急いで呼びくことに。昔よりも楽しそうにイベント事に参加するようになったんだけどどうにもサボりぐせは抜けないらしい。

「万里ーちょっとは準備手伝って…」

ガチャリとドアを開けるとソファで寝ている万里の姿。携帯をいじっていて眠ってしまったらしい彼はドアの音にも反応しなかった。あれこれはもしやいたずらのチャンスなのでは!?

足音を立てないようにソファに近づいてなにをしてやろうかと考える。それにしても相変わらず綺麗な顔してるななんて思って。顔にかかった色素の薄い髪をどかしてまじまじと眺め、静かな万里がなんだか可愛くてそっと触れるだけのキスを落とした。

「いたずら成功。なんて。」

ふふふと笑っていたら急に身体が引かれてうぉわ、なんて私の変な声とともに万里の上に覆いかぶさる形になってしまった。

「万里…!起きてたの!?」
「お姫さまのキスで目が覚めたのかもな?てかやっぱいたずらは起きてるときにしてもらわないと。」
「そういうのたち悪い…」
「なぁ、いたずらしてみ?」

驚く私をがっちり抱きしめている万里は言葉とは裏腹に目を細めて柔らかく笑っていてどきりとしてしまう。こういうのは飴と鞭っていうんじゃないだろうか。その大きな手が私の頬を撫でられれば悔しいけれど拒否するなんて選択肢が消えていって、引き寄せられるように万里の唇にリップ音を立てた。

「ふふ、私がキスしたかっただけかも。いたずらじゃないね。」
「…かわいすぎかよ。」
「っん、」

すこし強引に見えるけどすごく優しいって感じるこなキスが私は好き。離れてく体温が少し寂しくて思わず服を掴むと万里の目が開き珍しく驚いたような顔をする。

「っごめん。準備しないとだね。」
「いいよ。」
「え?」
「あとちょっとくらい待たせとけ。」

そう言ってもう一度そのきれいな顔が近づいてくる。ドアの外からは楽しそうな声が聞こえてきて行かないとって思うのに体が動いてくれない。動きたくない、が正解なのかも。私はあと少しだけねと仕方なさそうな顔をしてもう一度目を閉じたのだった。

prev / next

[ back to top ]