プロローグ


1回目は偶然
2回目は必然

じゃあもし3回目、出会ってしまったら?


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好きな人のタイプは?

「スーツ着こなせる人、眼鏡が似合う頭の良さそうな人、声もかっこいい人!」
「なにそのピンポイント。しかもほぼ外見。中身を見なさい中身を。」
「いいじゃん理想は持ってたって〜!内面は外見に現れるっていうでしょ?」

私の言葉を聞いた友達はそれはわざとらしく大きなため息をつき眉を寄せてこちらを見た。今夜私たちは合コンだったんだけどとても残念なことに特にこれといった成果もなく。気合い入れて買ったばかりのヒールの靴履いてきたんだけどなぁと鞄を振り回しながら歩く友達との帰り道。

「どこかにあると思うんだよね運命的なピピッとくる出会いが!」
「あんまり大きい声で言わないで一緒に歩くの恥ずかしいから…!」

帰り道お酒のせいもあっていつもより大きい声になっていたことに気がついて笑ってごまかした。

「大丈夫マリは可愛いんだからその気になれば彼氏なんてすぐできるよ。」
「誰でもいいわけじゃないもん。」
「こじらせてるね〜」

理想は理想だってもちろん分かってる。実際好きになる人はもしかしたら全然違う人なのかもしれない。それでも夢は持ってたい。そりゃあちょっとはこじらせてる自覚はあるけれど。

「彼氏作るために大学入ったんじゃないでしょ!」
「あいたっ」

横からチョップが飛んできて痛いと訴えればこれで眼が覚めるといいと思って、なんて友達はいたって冷静に言った。

花の女子大生この春から2年生。天鵞絨美術大学の学生で私の専攻はバレエ。クルクル回る方のやつ。小さな頃から始めた大好きなバレエだったから迷うことなく決めた進路だった。けっこう本気でやっていたけど入学して早々、怪我をして今はお休みを余儀なくされているところ。けど私はそれを悲観する性格でもなかった。できないならしょうがない、せっかく時間があるんだったらこれを機にやりたいことをやろう!と思いたったのが彼氏を作ること、というか恋愛をしたい!

「バレエ休んでるからその情熱の行き場を失ってるって感じだよねマリって。」
「そうなのかなぁ。でも彼氏とか好きな人がいるから頑張れる、ってよくない?ってことに今さら気がついたんだよね!」

何度目か分からない息を吐く音が聞こえてきてさすがに私もこれ以上はやめておこうと口をつぐんだ。練習漬けの毎日で恋愛なんてほぼするヒマがなく今まで来てしまったけど密かにずっと憧れていた。かといって出会いと恋愛はイコールじゃないってことを痛感してるところ。

理想の人がピンポイントなのは前に会ったことがある、というかすれ違った程度だけれどその人が頭にこびりついているからかもしれない。誰に出会ってもあの人のことを思い出す。忘れられない偶然。

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1度目会ったのはたまたま足を踏み入れたカフェ。隣に座っていたサラリーマン。緑の髪に青の瞳、眼鏡で背が高くてスーツがものすごく似合う人だった。店員さんにも愛想よく笑ったりしてあんなかっこいい人初めてみたって思った。でも声をかけることはできないまま。だからその時はかっこいいなと思っただけで、何日かしたら忘れかけているくらいの出来事だったと思う。

2度目はそれからすぐの運悪くゲリラ豪雨にあってしまったある寒い日。傘を持ってなかった私は雨宿りをしようとやっと見つけたお店の屋根の下に駆け込んだことがあった。そこには1人先に雨宿りをしていた真っ黒な服にフードを被ってる人がいて。見るからに怪しくて思わずちらりと顔を確認するとハッとするくらい整った顔立ちで息を飲んだ。でも見えた顔がこの前のサラリーマンだと気づくのには時間がかかったように思う。眼鏡がなかったのもあるけれどなんというか、雨を見上げるその瞳はこの前とは別人みたいだったから。

彼はどこかすべてを諦めてしまってるようなそんな寂しく悲しい瞳をしていた。

目を奪われた私が見つめているとこちらに気づいたその人は少し目を細め、フードを被り直し屋根の外に一本踏み出した。

「あの! 濡れちゃいますよ。もうすぐ止むって天気予報で…」
「別に雨宿りをしていた訳じゃない。」

思わず声をかけた私にそう一言だけ言うと彼はそのまま降りしきる雨の中に走って消えていったのだった。

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「なにその謎の男。二面性ありすぎて怖い。」
「え、うそちょっとドラマみたいじゃない?」
「…変な男にだけは気をつけてよね。」

また会えるかななんて友達に話したら全然乗ってきてくれなかった。一目ぼれ、かは分からないけどあの瞳の奥が知りたいと思ってあの瞬間胸がドキドキしたのは確か。それにもう一度会えたらそれは

「そういえば明日からどっかの劇場のバイトでしょ?」
「そうそう!毎日座学ばっかで暇してたら万里のとこで雑用のバイト探してるっていうからやろかなって。」
「マリも万里くんも顔広いよね。」

あぁみえてかなり本気で演劇に打ち込んでいる万里とバレエという畑違いではあるものの舞台で”魅せる”というところが共通してたりして仲良くなったのは入学してすぐのこと。見に来いと言われていたけど実際に見たことがない劇団の舞台。今回のバイトの話はついでにみれたりするのかもという下心もあり二つ返事でokした。色々勉強することもありそうだからすごく楽しみだったりする。

今思い出したけどバイトするのにMANKAIカンパニーのことなにも調べてなかったかも。よく考えたら練習でどうせ行けないしと公演のチラシもちゃんと見たことなかった。人数もけっこういるみたいだし当日で覚えられるかな。でも万里いるし大丈夫かな。

「肉体労働あるんでしょ?怪我してるとこ気をつけなよ?」
「ありがとう。大道具とかじゃないから大丈夫!」

そんな話をしながら駅に到着しまた学校で、と友達に手を振ってその夜は解散となったのだった。

**

「今日からのバイトさんですね!私が支配人の松川伊助です〜。」
「七海マリです。よろしくお願いします!」

次の日バイト初日。ほかのバイトさんが2人と私で支配人さんから説明を受ける。仕事内容はチケットの管理やお客さんの整理や客席のお掃除など仕事は難しいものじゃなく一安心だ。

今日は冬組のオペラ座の怪人のリバイバル上映らしい。残念ながら舞台を見ることは出来なかったけれど出てくるお客さんは目に涙を浮かべていて舞台のクオリティ高さを物語っていた。お客さんを見送りながら閉館の札をかけて一息ついたとき、声が聞こえた。

「お〜やってんな。」
「万里!紹介してくれてありがとうね。」
「いやこっちの方が助かった。ある程度舞台の知識あるやつのほうがやりやすいしな。」
「舞台って言っても私はバレエだけ、ど…ね…」

話の途中万里、と声がして後ろから歩いてきた男の人が目に飛び込んできたのは突然だった。

「なんだどした?」

目の前の万里が見えなくなって、驚きすぎて声を失った。

だって、ずっともう一度会いたいと思っていた人。会えないと諦めていた人。

だから見間違うはずなんてない。今度会えたら絶対に話しかけると決めていた、背が長くて緑の髪でメガネの似合う…

「また、会えた…!」






それは3回目の偶然の出会い。

誰かが言っていた。

1回目は偶然
2回目は必然

もし3回目会うことがあったなら、

それは運命の出会いだって。




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