翌日も彼は部屋にやってきた。昨日二人で話したときのような素直そうな様子はなく、若干緊張しているようにも見えた。だがそれまでだ。
相も変わらず何気ない世間話ばかりで入れ替わっていると疑っているような素振りもなく、淡々と日は過ぎていく。
……それが日常になりかけたある日、心労がたたったのか彼女は急に倒れてしまった。
「ど、どうすればいいの?」
看病はされたことはあるがしたことはない。
勝手がわからなくておろおろとする私に彼女は苦笑した。
「ご心配はいりませんわ。少しめまいがしただけですもの。寝ていればよくなります」
「で、でも」
「大丈夫ですわ」
頑として彼女は頼りはしない。
……頼りないのはわかっているが、少しだけ寂しい。
彼女の病は大方私のせいだろう。
無理を言って代わってもらっているのだ。肉体的にも精神的にも疲れが出てしまったのだと思う。
……かといってなにができるわけでもない。
「……ちょっと席を外すわね。なにもいらないの?」
「ええ、ご安心くださいませ」
「そう……。じゃあ……」
「いってらっしゃいませ。お気をつけて」
静かに部屋を出てとぼとぼと簀の子を歩く。
入れ替わっていると言っても結局私は姫で彼女は女房なのだ。それが痛いくらいにわかった。
「はあ……」
「……斎殿?」
一瞬、なにを言っているのかわからずに立ち止まる。だがすぐに自分の仮の名だと気がついて振り返った。
その先には青年の姿があって、怪訝そうな顔をしていた。
「顔が青い。いったいなにが……?」
「いえ、なんでもありませんわ」
「なんでもないという様子では……」
あまり突っ込んでくれるなと思いながら、笑みを作る。なんだかそれだけのことでも疲れた。
顔が引きつってしまったからだろうか。彼はまたも私を見てくる。
「…………」
「……なにか?」
「檜扇……」
呟かれた言葉にびくりと反応してしまう。それを見逃さなかったらしい彼はやはりというようにため息を吐いた。
「姫君の父上にお聞きしてきた。あなたの持っていたものとそっくりのものを娘に贈ったと嬉々として語ってくれたが」
「……何が言いたいの?」
なにも聞いてこなかったのは確証がなかったからか。一杯食わされたようで悔しい。
「あなたが私の妻になる姫だろう?彼女は代わりだ」
「ずばり言い切ったわね」
「間違ってはいないはずだからな」
どうだと私を見てくる。自信満々という様子で勝手ながらむっとしてしまう。
「……正解よ」
悔しくて顔を歪める。
すっかり父の存在を無いことにしていた。彼が不審に思って父に聞くということもあったというのに。
自分の考えが至らなかったことに深くため息を吐いた。
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