宵月夜
3
 






その約束から数年後、元服して大内裏に出仕し始めても以前と変わらずに彼女のもとに通っていた。僕が出仕を始める前の年から彼女の病は進行し始め、屋敷の外に出るとこはできなくなり、彼女は毎日屋敷の中で過ごすことを余儀なくされていた。それでも彼女はいつも楽しそうに過ごしていた。

自邸に戻る前に彼女の屋敷を訪ねると、彼女はいつにもまして嬉しそうな表情を浮かべていた。何かあったのか尋ねようと簀子へと上がると、彼女は御簾をはね上げて簀子に現れ僕の隣に座る。

「聞いて柊。私、次の吉日に裳着の儀をするんだって」

嬉しそうに話す彼女に、僕の心はざわついた。裳着を済ませるということは彼女にこうして面と面を向かって会うこともできなくなる。そして…

ざわつく心を表情に出さずに、「おめでとう」と笑顔で返す僕に、彼女はそれまで浮かべていた嬉しそうな表情を不安げな表情に変える。

「裳着を済ませても、柊はこうして会ってくれるよね…?」

彼女の言葉に、僕は心の中をのぞかれたような心地だった。裳着を済ませばこうしてお互いの顔を直接見ることはおろか、簡単に訪ねることも簡単ではなくなると彼女はわかっているのだ。それでも…

「僕は会いに来るよ。でも御簾越しにしか会えなくなると思うけれど、いつもと変わらずに君のもとへ行くよ。でもさすがに毎日は無理かな…」

この言葉は僕の本心だった。最後の言葉はさすがに気恥ずかしくてはぐらかしたけれど。しかし僕の言葉で彼女の顔には安堵の表情が浮かぶ。

「よかったぁ…。会えないなんて言われたらどうしようかなと思ったわ。でも最後の言葉は余計だわ、せっかくのうれしい気持ちが半減してしまったわ…」

「ご、ごめん…」

思わず正直に謝ってしまった僕に彼女はふふっと小さく笑い声をあげた。

「冗談よ…ふふっ。でもありがとう」

さっきまでの不安そうな表情はどこにも残っておらず、楽しそうに笑う彼女に、僕も釣られて笑った。

それから他愛もない話で盛り上がり、そろそろ帰ろうと腰を上げたとき、御簾の外から声をかけられた。








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