「…月が綺麗ですね」
衣擦れの音とともに隣に誰かが座った気配に青年はちらりと目線を寄越し、もとに戻す。
「眠れませんか…?」
隣に腰を下ろした女房が小さな声で尋ねると、ゆるく首を横に振って、ゆっくりと口を開く。
「…ああ、御簾越しからの月の明かりがまぶしくて…君は?」
見上げた月は爛々と輝き、池の水面に映る様はとても幻想的だ。
「私も同じですわ…。明日でもう1年になりますものね」
寂しげな表情を浮かべて呟く女房の声に、青年は月を眺めながら懐かしむように口を開く。
「こんなに綺麗に輝く月を見ていると、あの日を思い出すんだ…。”紗月”に連れられてみたあの日のことを…」
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